52:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:29:36.97 ID:n4MKx+790
好き嫌いで語るなら、私はプロデューサーのそういう無遠慮なところがあんまり好きじゃないけれど、多分悪い人じゃないんだというのは、私の無茶なお願いを聞いてくれて、それを形にしてくれたことからもわかる。
歌いたい曲がある。
新人がそれをリクエストするのは、分不相応なことだというのはわかっていた。
それでも私に担当のプロデューサーがついたあの日、開口一番に言ったのは挨拶とか自己紹介じゃなくて、そんな無謀な、戯れ言だと一蹴されるようなお願いだったのは今でもはっきりと覚えている。
それを聞いたプロデューサーは、当然だけど笑っていた。さっきみたいに豪快にがはは、と大口を開けて。呵々大笑、なんて言葉を実践するならきっとこんな感じだとばかりに笑っていたのだ。
だけど、そこに私を馬鹿にしたり、侮蔑するような響きがないことはすぐにわかった。
馬鹿だと、とんでもない馬鹿を担当することになっちまった、と口にはしながらも、私を拒絶していないのが、何よりそれを雄弁に物語っているのかもしれない。
思い出す。初めて、魔女に会ったあの日のことを。
あのひとは、公園にいる皆の視線を釘付けにした。そして今、舞台袖から覗く街角では、あの時とは比べものにならない数の人々が忙しなく行き交っている。
だけど、私の歌でその中のどれぐらいを振り向かせられるだろう。
頭の中ではいくらでも、最悪なケースを思い描ける。でも、心はどこかで期待を捨てきれない。オーディションの時と一緒でいつだって最高を思い描いて、それが叶うことを信じて疑っていないのだ。
57Res/91.81 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20