222:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:34:22.90 ID:1/ZkFkMM0
「……まぁ、そういう事でもいいです」
「ウラー♪」
まったく、彼女の相手は楽しいものの、たまの不意打ちが心臓に悪い。
知れず嘆息しながら、事務所を出ようとした時だった。
223:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:39:40.57 ID:1/ZkFkMM0
いつも相手への配慮を欠かさないアーニャも、怪訝そうに首を傾げている。
この人に匂いフェチなる嗜好があることは知っていたが、つくづく理解できない領域だ。
ただ、この人は今、出入口ではなく、1階の廊下から歩いてきて私達に声を掛けてきた。
彼女の歩いてきた先には、回遊して外に出入りできる扉はあるが、普段は通用されていない。
224:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:41:49.55 ID:1/ZkFkMM0
「!!? だっ!?」
肺の中の空気が一気に押し出され、地上に打ち上げられた魚のように呼吸の仕方を忘れてむせてしまう。
「チヨ、大丈夫ですか!?」
「にゃははー、反応しすぎー♪ お別れの挨拶代わりにハグくらい、ルーマニアでも普通でしょー?」
225:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:44:44.55 ID:1/ZkFkMM0
あの人が、誰かに甘えるなどと――。
強いて、おじさまにはそういう態度を取る時も頻繁にあったが、いくら奔放とはいえ、赤の他人にそこまで心を開くとは思わなかった。
「常務も優しそうに腕を回してて、これちょっとイメージ崩れちゃわない?って心配になっちゃったけど、止めるのもヤボだしねー。
何ていうか、ラブを育むっていうより、うーん、たぶんあたしにはよく分かんない領域だけど……」
226:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:47:23.89 ID:1/ZkFkMM0
志希さんは、度が過ぎた冗談は言うが、嘘はつかない人だと認識している。
しかし、果たして額面通りに受け取って良いものかどうか――。
「チヨ」
「何でしょう」
227:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:49:23.77 ID:1/ZkFkMM0
とはいえ、私はあの人に良い印象を持っていない。
医務室で初めて対峙して以来、何も話をする機会が無かった。
良い印象を持っていないのは、向こうも同じか。
いや、そもそも私のことなど歯牙にも掛けていないだろうな。
228:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:51:58.98 ID:1/ZkFkMM0
「黒埼ちとせなら、先ほど既に寮に戻った」
その場をどこうとしない私にため息をつき、彼女は私の脇を通り過ぎようとする。
「アイドルは身体が資本だ。
229:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 21:54:54.04 ID:1/ZkFkMM0
連れられた場所は、事務所棟の上層にある常務の部屋だった。
シンデレラプロジェクトの事務室にあるそれとは比べものにならないほど、フカフカの椅子に座らされている。
ほどなくして、常務が二人分のカップを持ってこちらに戻ってきた。
230:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 22:00:41.65 ID:1/ZkFkMM0
「は?」
目が点になり、間抜けな返事が零れる。
常務という上席を前に失礼は承知の上だが、彼女の指す意味がまるで分からない。
231:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 22:06:28.18 ID:1/ZkFkMM0
「あの人に何をしたと言われても、私にお答えできることなどありません」
コーヒーを一口飲んでみると、思った以上に苦くて軽くむせそうになった。
しかし、「何でもいい」と言った手前、砂糖とミルクに手を出すのは気が引ける。
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