185:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:49:45.38 ID:1/ZkFkMM0
珍しく怒気のこもったお嬢様の声に、驚いて顔を上げた。
「同年代の友達がいなかった私に、北海道の白雪のおじさまとおばさまは、この屋敷へ遊びに来てくれる度に私を可愛がってくれたよ。
そして、その女の子も。
お庭に連れ出して、一緒にお花を摘んだり、落ち葉を投げ合ったり、夏は蝶々を捕まえて、冬は雪玉をたくさん作って、鼻の頭を真っ赤にして笑う子が、私は好きだった。
186:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:52:30.20 ID:1/ZkFkMM0
「私は黒埼家に拾われて幸せでした。
お察しの通り、私がアイドルを辞める決意をしたのは、お嬢様からアイドルを引き離すためです。
このまま無茶なレッスンを続けていては、お嬢様のお身体はいずれ壊れてしまいます。
私に生きがいを与えてくれたお嬢…」
「誰かに与えられる生きがいじゃなくて」
187:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:54:29.92 ID:1/ZkFkMM0
「……お嬢様」
「お嬢様、も止めよう?」
フフッ、と肩を震わせて、お嬢様は照れ臭そうに鼻をかいた。
188:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:56:51.78 ID:1/ZkFkMM0
「……まずいです」
「やっぱり?」
案の定ボソボソしている。玉ねぎどころか、つなぎに小麦粉もパン粉も入っていないのではないか。
ソースも、醤油を水で伸ばしたかのようなシャバシャバとボンヤリした味わいで、中途半端な塩味が見事に口当たりを邪魔している。
189:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:59:54.17 ID:1/ZkFkMM0
「白雪さんが、そのように思い詰めていたとは気づかず……申し訳ございません」
「いえ……私の方こそ、話をしませんでしたから」
コイツの慎重な運転で、暗い山道を下っていく。
190:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:01:01.81 ID:1/ZkFkMM0
――私の誕生日、か。
アーニャさんも、時折こうして洒落たことを言う。
それなら――そうだ。
191:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:05:21.03 ID:1/ZkFkMM0
道順を示しながら向かった先は、黒埼家から山道を少し下った先にある小高い丘だった。
車を下の広場に止め、落ち葉が降り積もる小道を上ると、直にその上から緑に覆われた山々と、麓の街並みが遠くに見える。
だが、それは昼間の話。
192:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:06:56.62 ID:1/ZkFkMM0
かぶりを振って、足元の落ち葉を一度、軽く蹴っ飛ばしてみる。
戯れにはしゃいでみるのは――柄にも無くセンチメンタルな気分に浸るのは、今の私にはこの程度で十分だ。
「黒埼家から決別……もとい、自立をするに当たって、過去を一度、清算するべきかなと、思ったもので」
193:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:11:15.86 ID:1/ZkFkMM0
アーニャさんは、それ以上何も言わない。
ただ、いつかの時と同じように――何か言いたいことがあるはずなのに、それを必死で我慢するような――。
しかし、今日のそれは笑顔ではなかった。
今にも泣き出しそうな、星空ではなく、氷のように寂しそうな瞳。
194:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:17:20.83 ID:1/ZkFkMM0
冷たく澄んだ風が、頬を切り裂く。
あの日の小樽も、これよりもっと乾いた空気だったのだろう。
「その日、私は外に出ていて、日が暮れて帰った時には、家がありませんでした。
出かける頃にはまだあったはずの家が、骨組みだけを残して、燃え尽きていたのです。
301Res/285.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20