白雪千夜「足りすぎている」
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191:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:05:21.03 ID:1/ZkFkMM0
 道順を示しながら向かった先は、黒埼家から山道を少し下った先にある小高い丘だった。

 車を下の広場に止め、落ち葉が降り積もる小道を上ると、直にその上から緑に覆われた山々と、麓の街並みが遠くに見える。

 だが、それは昼間の話。
 夜にここに来るのは初めてだったが、時々つまずきながらそこに上っても、見晴らせるのは申し訳程度にチラホラ見える街の明かりだけだ。
 おまけに今日は天気も悪く、アーニャさんの好きな星も見ることができない。
 この時期としては観測史上最強の大寒波と言うだけあって、気温も真冬のように寒い。

 だが、それでもここは、私にとって今日来るべき特別な場所だった。


「私が黒埼家に仕える前……よく連れられて、お嬢様と遊んだ丘です」

 降り積もる落ち葉を、何となしに踏みしめる。
 そうそう、ここの落ち葉を投げ合いっこしていたら、小さい虫がその中にくっついていて、お嬢様を泣かした事があったっけ。

「おじさまと……私の両親に、連れられて」

 感慨が無いと言えば、嘘になる。
 まさかこんな気分で、もう一度この地に来ることになるとは思わなかった。 



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