12:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:08:59.79 ID:QXbKSZYO0
頑とした態度を見せつける私に、男は黙って頭を下げて車に乗り、屋敷を去って行った。
まったく――芸能界というのは極めて図々しい輩の集まりだな。
一体何様のつもりだろうか。
13:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:10:39.25 ID:QXbKSZYO0
一通り家事を終えて自室で休んでいると、時計は夕刻を指そうとしていた。
おじさまとお嬢様、遅いな――。
だが、そろそろ夕食の準備をしなくてはならない。
14:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:12:27.40 ID:QXbKSZYO0
――?
妙だな。おじさまもお嬢様も、帰宅を報せるのに呼び鈴を鳴らすことはない。
また客人だろうか。こんな時間に?
15:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:14:47.48 ID:QXbKSZYO0
「どうぞ、召し上がってください。
この子の作るハンバーグは、ウチの自慢です。ささ、遠慮せず」
食卓に着いたおじさまが、ニコニコと笑いながら、同じく席に着いたあの男に促す。
せっかくだからと、夕食を共にするよう勧めたのだという。
16:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:15:54.76 ID:QXbKSZYO0
食事を終え、テーブルの上を片付ける。
男は私に、「ごちそうさまでした」と丁寧に頭を下げた。
「とても美味しかったです。
よく利用する洋食屋で食べるものよりも、繊細な味付けと食感で、非常な手間暇を感じさせるものでした」
17:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:17:22.71 ID:QXbKSZYO0
なるほど。
お互い車で移動していたはずのお嬢様方と男が、ここに来るまでどう接触をしたのか不思議だったが、そういうことか。
同時に、そうまでして私をアイドルにしたかったのかという、お嬢様の強い意欲を感じる。
18:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:18:57.19 ID:QXbKSZYO0
「ちとせは言いくるめられたのではない、千夜。私も一緒にいたのだから」
返答に窮した男に、助け船を出したのはおじさまだった。
「この子がそう考えたように、私もお前に、アイドルなるものを志しても良いのではと思ったのだよ。
19:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:20:23.12 ID:QXbKSZYO0
話を聞くと、男の芸能事務所――346プロダクションには、事務所が有する女子寮がその敷地内にあるらしい。
地方から上京するアイドル達の生活を支援するものであり、大手故にセキュリティも、万が一の医療体制も万全。
これまで探してきた都内のどの物件よりも、今後の私達に理解のある住まいとなるのは明らかだった。
4月から通うことになる学校にも、電車で二駅ほどしか離れていないらしい。
20:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:22:33.10 ID:QXbKSZYO0
――そっと、お嬢様のお顔を覗ってみる。
お嬢様は、何も言わずにニコニコと笑ったままだった。
21:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:23:56.46 ID:QXbKSZYO0
「そうは言っても、私はあなたが導いてくれることを期待しているよ?」
テーブルに肘をのせ、悪戯っぽくお嬢様が微笑みかける。
「プロジェクトの名が示すとおり、千夜ちゃんをお姫様にしてあげてね、魔法使いさん♪」
22:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 21:25:14.44 ID:QXbKSZYO0
ふと、言葉を止めた。
今の私には、考えることが一つだけある。
対等――従者として生きてきた私には、対等といえる立場の相手が久しくいなかったことに気がついた。
そういった者には、どう呼称するのが一般的なのか。
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