12: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:13:03.32 ID:rNK9Zl/t0
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三船さんへの仕事のオファーは、初仕事を終えて以来着々と増え始めていた。
熱心にレッスンに励み、仕事をこなし、少しずつアイドルとしても成長しつつある彼女は、まだ自信なさげではあるけれど目に見えて明るくなった……と、思う。
13: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:13:32.44 ID:rNK9Zl/t0
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「で、最近どうなんだよ? 美優ちゃんとは」
14: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:14:38.08 ID:rNK9Zl/t0
飲み会帰り、先輩から逃れるべくいつぞやのように一駅歩いて帰ることにした。
初めて会った日からしばらく経って、なんとなく懐かしくなったのもある。
駅と駅のちょうど真ん中あたり、広さの割に人通りの多くない道だったはずだ、と記憶を頼りに街を歩く。
不意にズボンのポケットから振動とともに着信音が鳴り響いた。軽く咳払いして、電話に出る。
15: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:15:40.29 ID:rNK9Zl/t0
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彼女と会うときはいつもスーツ姿だったから、着ていく服に悩むなんてことを久しぶりにした。
夜は寝つきが悪く、そのくせ早く起きすぎるなんてこともやらかした。
16: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:16:10.61 ID:rNK9Zl/t0
ぎこちなく目を伏せて、二人並んで歩き出した。
目的のテーマパークは流行りというだけあって大混雑で、何をするにも数十分単位で待たされそうな有様だった。
とりあえずは入場のための列に並ぶ。
「予想はしてましたけど、混んでますね……」
17: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:17:23.93 ID:rNK9Zl/t0
テーマパークのアトラクションは、待ち時間こそ長かったけれど人気なだけあってクオリティが高く、どれも存分に楽しめるものだった。
並んでいる間、少し声をひそめながらもアイドルとしての歩みを振り返ったりして、慣れてくれば胸の高鳴りだけを残して穏やかに時間が過ぎる。
「もうすぐ閉園時間ですね。あと一つ、乗れるか乗れないか……」
18: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:18:26.03 ID:rNK9Zl/t0
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三船さんから別れを告げられた次の日、鉛のように重い体を引きずって出勤した僕は、デスクに座ってひたすら彼女の言葉を頭の中で繰り返していた。
19: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:19:08.95 ID:rNK9Zl/t0
丁度よくその日の昼前に打ち合わせがあり、三船さんと顔を合わせることになった。
彼女はきちんと時間通りにやってきて、何事もなかったかのように応対し、打ち合わせはつつがなく終わった。
「お疲れ様です、三船さん」
20: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:19:53.15 ID:rNK9Zl/t0
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「すごい人……皆さん、とても楽しそうで……。私もいつか、大切な人とこんな場所を訪れる日が来るのでしょうか……なんて、いけませんね」
21: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:20:26.55 ID:rNK9Zl/t0
彼女は僕のななめ後ろを、付かず離れずでついて歩いた。
前に来た時は、ずっと手をつないでいたんだったか。今はまだ、彼女の手を取れない。
「これからどうするか、決まってるんですか」
22: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:21:12.02 ID:rNK9Zl/t0
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三船さんが歌うLast Kissは無事CD収録を終え、発売を迎えた。
先延ばしにされた最後の仕事は、今日の発売記念の披露イベントということになっている。
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