14: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:14:38.08 ID:rNK9Zl/t0
飲み会帰り、先輩から逃れるべくいつぞやのように一駅歩いて帰ることにした。
初めて会った日からしばらく経って、なんとなく懐かしくなったのもある。
駅と駅のちょうど真ん中あたり、広さの割に人通りの多くない道だったはずだ、と記憶を頼りに街を歩く。
不意にズボンのポケットから振動とともに着信音が鳴り響いた。軽く咳払いして、電話に出る。
「はい、もしもし」
「もしもし、三船美優です。夜分遅くにすみません」
電話の主に少しだけ運命めいたものを感じながら、酔いが表に出ないよう応対する。
「ああ、三船さん。どうしましたか?」
「その……お願いしたいことがあるんです。明後日のオフですが、私に付き合ってもらえないでしょうか」
真剣な声で語られたのは、そんな頼み事だった。
明後日は大した予定もなかったはずだと記憶を辿る。
「ええと……はい。大丈夫ですよ。どこに向かうとか、決まってますか?」
「今度ののロケで、リポートするテーマパークに。流行りの場所には疎いので、的外れなことを言ってしまわないよう、下見がしたくて」
「そういうことならお安いご用です。それじゃあ、時間とか決めちゃいましょう」
「……はい。ありがとうございます」
安請け合いをする僕と打って変わって、三船さんはひどくほっとしたような声音だった。
待ち合わせの時間と場所を決めている間も、どこか真剣で緊張しているような気配がある。
不思議に思いながら「また明後日」と電話を切り、少し歩いてからふと気づく。
「流行りのテーマパークに、三船さんと、二人で……?」
世間一般にそれをどんな言葉にするか、そして三船さんの態度が結びついてしまう。
いやいや仕事のための下見と言っていたわけだし、だけどそれはいわゆる口実というやつでは、頭の中で討論が始まって、てんやわんやになり始めていた。
気づけば彼女と出会った道に差し掛かっている。
ガードレールを掴んで体重をかけながら、もう片方の手で顔を覆うようにして頭を抱えた。
プロデューサーとして、アイドルとそういう関係になるわけにはいかない、はずだ。
その一心で、僕は僕をごまかしていた。
そればかり気を取られていたせいで、その可能性に気づけずにいたのだ。
もしも彼女が僕に好意を寄せていたら、なんてこと。
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