15: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:15:40.29 ID:rNK9Zl/t0
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彼女と会うときはいつもスーツ姿だったから、着ていく服に悩むなんてことを久しぶりにした。
夜は寝つきが悪く、そのくせ早く起きすぎるなんてこともやらかした。
学生の頃みたいな精神状態に、この歳でなるとは思わなかった。
約束の20分ほど前に待ち合わせ場所に着いて、もう既に来ているんじゃないかとさりげなく辺りを見回す。
「同じ電車、乗っていたみたいですよ」
「っ!?」
背後からの囁き声にびくりと飛び上がり、振り返る。
そこには驚かせた側であるはずなのに目を見開いた三船さんがいた。
「そういうのは勘弁してください。心臓に悪いです……」
「すみません、そこまで驚くとは思わなくて」
くすくすと笑った彼女は僕の格好を視線でなぞる。
物珍しいのだろうけど、じっと見られると気恥ずかしい。
三船さんは衣装を着るたびにこの感覚を味わっていると思うと、感服すら覚えてしまいそうだ。
「なんだか、違う人と会っているみたいです。……か、格好いいですよ」
「う……」
胸のあたりから背中にかけて、痛みのような、むずむずした何かが走る。
嫌な感覚ではないのだけど、何度も味わいたくないものでもないという、矛盾した感想を抱いた。
「それじゃあ三船さん、ちょっと早いけど行きましょうか」
「……美優」
「……?」
「その、これから行くテーマパーク、デートスポットとして人気らしいんです。だから、普段と違う呼び方、してくれませんか……?」
「え、あと、それは……」
それはつまり、カップルを演じたいと言われているのと同義だ。
本当にただのお遊びや演技であるなら、気恥ずかしくても我慢したかもしれない。
けれど、上目遣いでこちらを見やる彼女の瞳からは、それ以上の意味を感じてしまう。
そして、その視線を向けられてなお断ることなんて、僕にはできそうになかった。
「わ、わかりました。……み、美優、さん。……で。呼び捨てまでは、許してください」
「っ……。はい」
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