三船美優「最後にキスをして」
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18: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:18:26.03 ID:rNK9Zl/t0



 三船さんから別れを告げられた次の日、鉛のように重い体を引きずって出勤した僕は、デスクに座ってひたすら彼女の言葉を頭の中で繰り返していた。

 今、自分に与えられている仕事はちゃんとこなす。だけど新規の仕事は受けず、今ある仕事が全て片付いたらアイドルを辞める。
 それが彼女の要求だった。

 三船さんがアイドルなんてやりたくないと言ったのであれば、僕に引き止める権利なんてない。
 この世界の魅力を伝えきれなかった僕の落ち度なのだから。

 でも、彼女は僕を理由にアイドルを辞めようとしている。
 そして、辞めた後も僕の前に姿を見せることもしない、と、そう言っていた。
 それが彼女なりの責任の持ち方なのだと、理解はできる。

「……いいはず、ないよな」

 ぼそりと呟く。そう、いいはずがない。
 僕は彼女が大事で、彼女をアイドルとしてプロデュースしたくて、彼女のそばに、いたいんだ。
 身勝手にいなくなるでもなく、義理を通して、お互いに苦しんで、誰も笑えないお別れなんてご免だ。

 ……とはいえ、どうすればいいかなんて、思いつかないんだけど。

「おうおう、辛気くさい顔してんな。どうしたよ」

 パソコンの前で頭を抱える僕に、先輩が声をかけてくる。目に見えるほど暗い顔をしていたらしい。納得ではあるが。

「……担当アイドルに、愛想を尽かされそうでして」

「はっはっは! ……あー、マジな話か?」

「残念ながらマジです。最後通告をいただいて、どうにかヨリを戻せないか策を練ってるところなので、今日は使い物にならないと思います」

 どうしてかすらすらと言葉が出てくる。
 いつもならはぐらかして、飲みの席で無理やりに聞き出されるような話が、ためらいなく。

「ま、プロデュースしてりゃ一回くらいはそういうピンチもあるもんさ。どーしようもなくなったら俺に言いな。ヤケ酒くらいは付き合ってやる」

「やめてくださいよ、縁起でもない」

「はっはっは。ヘタレなりに頑張んな。あ、メールチェックくらいはしとけよ」

「はいはい、了解です」

 こっちに興味があるのかないのかわからない先輩と話して、少しくらいはどうにかなるんじゃないかという気がしてきた。
 まずは、三船さんの残りの仕事を洗い出すことから始めてみるとしよう。
 今すぐ二度と会えなくなる、ってわけじゃないんだから。


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