73: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:28:38.15 ID:BON9hvjh0
「ほう? なんともはや、君に良く似合っている名前だ」
だが社長に先に言われてしまった、と少ししょぼんとなる。そんな俺の気を知ることなく、満足げに笑い、そして言葉をつづけた。
「さて、そこの彼から話を聞いているかも……いや、この様子だとさっぱり聞いていなさそうだな。ともかく、私は新しくアイドルのプロダクションを立ち上げようと思っている。君にはその、最初のアイドル候補となってもらうつもりだ」
74: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:29:07.02 ID:BON9hvjh0
「君はさっき、自分を“持たざる者”と言ったね。確かに、それはそうかもしれない。だからこそ、君の“持てる限り”の証明、確かにこの目で見届けた。ふふふ、実に良いものだ」
『では……?』
「うむ。よくぞここまで一念を通した。それだけではない。君は“意地”と“筋”まで通した。生半な人間では、そうはいかない」
75: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:29:47.49 ID:BON9hvjh0
『渋谷凛さん。どこまでも至らないけれど、俺が君の”プロデューサー”です。でも君を必ず、トップアイドルにしてみせます。だから……よろしくお願いします』
彼女は、どこか強気で、でも純粋な目のまま答える。
「ふうん……アンタが私の”プロデューサー”? ま、悪くないかな」
76: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:30:18.26 ID:BON9hvjh0
□ ―― □ ―― □
77: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:30:58.88 ID:BON9hvjh0
その間俺は何をしていたかって言うと、ずっと“半人前”のプロデューサーだった。なにせ“持たざる者”ってのは変わらなかったから。
だから後から入ってきたプロデューサーに頭を下げて、そしてこれでもかっていろんなことを教わった。それが俺の“持てる限り”だと思ったから。
本好きで超過労働がちなプロデューサーからは様々な知識を。
78: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:31:25.51 ID:BON9hvjh0
そうそう、事務員で思い出した。俺が夢を目指すきっかけとなったあの動画のアイドルは、なんと正直者なプロデューサーが手掛けたアイドルだったのだ。
「へえ、なんだか嬉しいな。こんなに優秀なプロデューサーが生まれるきっかけだなんて……あの時俺たちのやってたことは間違いじゃなかったんだなぁ。ねえ、ちひろさん?」
しかもそのアイドルが引退後、事務員としてシンデレラガールズにやってきたのだから俺の興奮はすごかった。その時に向けられた渋谷さんからの冷たい視線で素に戻ったのは、今となると笑い話だ。
79: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:31:52.65 ID:BON9hvjh0
「――あっ、プロデューサー。ここに居たんだ」
そんな感傷に浸る俺へ、掛けられる凛とした声。それに気づいて、俺は立ち上がる。そこに居たのは、あのトロフィーを持った、ドレス姿の渋谷さんの姿。
『渋谷さん、おめでとう。凄く綺麗だった』
80: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:33:00.13 ID:BON9hvjh0
「“これ以上、俺が重荷になるわけには行かない”……なんて、考えているんでしょ、プロデューサー?」
どくん、と心臓が跳ねた。考えていたことをピタリ、と言い当てられたのだから当然だろうけれども。見やれば、少し不機嫌そうな渋谷さんの顔。
「あのさ、プロデューサー。私がここまでこれたのはプロデューサーがいたからだよ。なのに重荷なんてはず、ないじゃん」
81: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:33:27.61 ID:BON9hvjh0
「夢なんかじゃないよ。夢なんかじゃ」
そして、渋谷さんは思い出したように、
「……そうだ、プロデューサー。あの約束、覚えてる?」
82: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:34:09.89 ID:BON9hvjh0
「“凛”……って、そう呼んでほしいな。いつまでも“渋谷さん”なんて、他人行儀だから」
そんな、些細なお願い。思わず目を丸くする。そう言えば、確かに渋谷さんのことをそう呼んだことはない。ほかのプロデューサーは下の名前で呼んでいる人もいるのに。
『そんなのでいいのか?』
83: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:34:36.50 ID:BON9hvjh0
「プロデューサーは自分のことを“半人前”って言うけどさ」
『うん』
「私だって、何も知らなかった私から、ようやく“半人前”のアイドルにはなれたと思ってるんだ」
88Res/88.77 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20