73: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:28:38.15 ID:BON9hvjh0
「ほう? なんともはや、君に良く似合っている名前だ」
だが社長に先に言われてしまった、と少ししょぼんとなる。そんな俺の気を知ることなく、満足げに笑い、そして言葉をつづけた。
「さて、そこの彼から話を聞いているかも……いや、この様子だとさっぱり聞いていなさそうだな。ともかく、私は新しくアイドルのプロダクションを立ち上げようと思っている。君にはその、最初のアイドル候補となってもらうつもりだ」
「それは……何となくわかりました。それで……あの、この人は?」
渋谷さんは俺の方を見た。よく考えれば今の俺の立場はとてもふわふわとしている。何せ、社長からの勧誘を断ったばかりなのだから。
「おお、そうだな」
それに気付いたらしい。どこか、社長は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「彼には是非とも、我がプロダクション初のプロデューサーになってもらおうと思っていたのだが、先ほど断られてしまってね。さて、どうしたものか……」
聞いた瞬間、ばね細工が跳ねるように俺の背筋がぴん、と伸びる。
『社長、先ほどはすみませんでした!』
そして腰を直角に曲げ、頭を下げた。ほんの十分前の自分をぶん殴りたくなるが、幸いにも頭上から、剛毅な笑い声が聞こえる。
「わははは! 冗談だよ、冗談。ほら、三度は言わんと言ったぞ」
なんだか既視感を覚える形で、恐る恐る頭を上げた。やはり社長は笑っている。
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