モバP「持たざる者と一人前」
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36: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:29:08.30 ID:p4U+w2zG0
『……やることは、変わらないよね』

 これは! という女の子を説得し、連れてくること。それしか思い浮かばなかった。むしろそれしか俺にはないってことでもある。ある意味簡単な話になった。やったな。

 問題はそれが限りなく難しいことなんだけれども。
以下略 AAS



37: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:29:36.83 ID:p4U+w2zG0
『……探しますかね。あの子を』

 だからそれが今の俺のできる唯一のこと。もちろん見つかるはずもないだろう。そもそもこの街の住人ではない可能性すら高い。そりゃそうだ、昼間人口と夜間人口が数倍以上ある街なのだから。

 遠いところから、たまたま遊びや用があってきていただけ――。そんな可能性も当然ある。でも妥協はしない。できない。そんなことをしてしまえば、夢が夢じゃなくなってしまう。
以下略 AAS



38: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:30:16.75 ID:p4U+w2zG0
『見つからないなぁ……』

 ぽつり、つぶやいた。周囲は随分と暗くなっている。ケータイを取り出して時間を見れば、すでに午後七時を回っていた。道理で暗いはずだ。

『しょうがない、今日もいったん帰ろう』
以下略 AAS



39: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:30:51.10 ID:p4U+w2zG0
『……ははっ』

 乾いた笑いが出た。小道を挟んで、二軒隣。閉店間際の花屋、その店先に幻覚が立っていたから。

 制服姿に膝までのエプロン。さすがに衣替えをしたのか、半袖のブラウスからすらっとした手足がちらり、と見えている。なにやら黙々と花の入ったバケツやプランターを店内に運んでいた。
以下略 AAS



40: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:31:18.16 ID:p4U+w2zG0
「……? はい、何か用ですか」

 だが、彼女の表情はまさしく初対面の人を見るものだった。その言葉と表情が、安堵と安心から俺を現実に引きずり戻す。

(はは……そうだよな。覚えているハズもないか)
以下略 AAS



41: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:31:44.28 ID:p4U+w2zG0
「……あっ、携帯電話の人」

 彼女がそう言った。どくん、と心が跳ね上がる。良かった、記憶には残っていてくれた。そのことにどうしようもないほど嬉しさを感じつつも、客観的に考えれば驚くほど気持ち悪いと思うので表には出さず、

『そ、そうです、そうです。たまたまお見掛けして、それであの時のお礼を改めてって思って。本当に、ありがとうございました』
以下略 AAS



42: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:32:30.72 ID:p4U+w2zG0
□ ―― □ ―― □



『――よし、腹切って死のう』
以下略 AAS



43: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:32:57.92 ID:p4U+w2zG0
『あっ』

「……ねぇ、なんでいるの?」

 駅に向かって歩こうと振り返った刹那。そこにはスクールバッグを持った、制服姿の彼女がいた。遅かった、なんて考えつつその表情を見る。怒っているような、疑うような、そんな顔だ。
以下略 AAS



44: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:33:26.20 ID:p4U+w2zG0
 そしてどこか胡乱な目のまま俺を見据えながら、

「要るの、要らないの?」

 変わらずキツめの調子で聞いてくるので、ほとんど反射的に、
以下略 AAS



45: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:33:57.20 ID:p4U+w2zG0
 それからの俺はきっと、奇怪な存在だっただろう。夕方の電車の中、学生たちの帰りに混じって社会人が一人、ビニルフィルムで巻かれただけの花を一輪もってたたずんでいる。

 ちょいちょい突き刺さっては離れていく視線がとても痛かった。最寄り駅で降りてからは人気も減り、その視線もなくなっている。

 アパートへの路地を一つ、二つと曲がって鍵を取り出した。鉄階段を上り、突き当りの自分の部屋を開ける。夕焼けに染まった1Kの部屋が出迎えてくれた。
以下略 AAS



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