39: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:30:51.10 ID:p4U+w2zG0
『……ははっ』
乾いた笑いが出た。小道を挟んで、二軒隣。閉店間際の花屋、その店先に幻覚が立っていたから。
制服姿に膝までのエプロン。さすがに衣替えをしたのか、半袖のブラウスからすらっとした手足がちらり、と見えている。なにやら黙々と花の入ったバケツやプランターを店内に運んでいた。
『えらく……リアリティのある……幻覚だなあ……』
頬をつねった。めちゃくちゃ痛い。幻覚は消えず、彼女は変わらず花を運んでいる。……はたから見れば道行く人々の中、花屋のほうを見ながらぼうっと立ち、思いっきり頬をつねる男。どう見ても不審者です。
こりゃいかんとばかり、ほかの人の邪魔にならないように小道に避けて。それから少し考える。彼女はあそこで何をしているのだろうか、とか。どうやって声をかければいいのか、とか。
そして途中で馬鹿らしくなる。何をいまさら。この奇跡のような機会を無駄にする道理なんてどこにもない。
『……あの、すみません』
ほとんど衝動的に、俺は彼女へ声を掛けた。プランターを運んでいたその顔がこちらを向く。やっぱり見間違えなんかじゃなかった。安堵と安心に一瞬、支配されそうになる。
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