38: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:30:16.75 ID:p4U+w2zG0
『見つからないなぁ……』
ぽつり、つぶやいた。周囲は随分と暗くなっている。ケータイを取り出して時間を見れば、すでに午後七時を回っていた。道理で暗いはずだ。
『しょうがない、今日もいったん帰ろう』
探索行はすでにかなりの範囲になっている。環状鉄道の内側くらいは優に歩いているはずだ。何せ内側は歩き尽くし、今や環状鉄道の線路、その外側に行っているのだから。
都市区画の数でいえば四つか五つほど。我ながらよくもまあ、それだけ歩き回ったことだろう。もちろん広い範囲を探し回るのは裏目に出る可能性もある。
あっちを探している間にこっちにいて、こっちを探している間にあっちにいる……なんてのはテーマパークとかなら良くある話。それが都市規模ともなればなおのこと。
ひたすら定点観測したほうが、もしかすると見つかる可能性は高いのかもしれない。それでも俺は探し回った。理由? そんなものはない。強いて言えば、
『うーん、今日こそなんだかいいことありそうな雰囲気だったんだけどなあ』
ただ何となくそう思っただけという理由だ。毎日そう思っているからなんのあてにもならないけれど、結局できることをするしか俺にはできない、それならできることをできる限り。これは変わらない。
俺は軽く首を鳴らしながら、いくらか入り組んだ道を抜けて駅へと向かう商店通りを歩む。服屋、金物屋、仏具屋にコンビニやファストフードチェーン。新旧ないまぜになった店がならぶ、駅前へと向かう通りとしてはよくある道だ。
それなりに人通りもありなかなかににぎわっているようで、なんとなくこういう通りにある肉屋の惣菜が美味いんだよな、なんて思い浮かべる。そういやコロッケとか唐揚げとか、そういうの全然食ってないな。
(もしあったら、ちょっと買って帰ろうかな)
そんな風に見回しながら歩く。そして肉屋らしき店を見つけた。いい匂いがする。そう思った瞬間だった。
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