40: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:31:18.16 ID:p4U+w2zG0
「……? はい、何か用ですか」
だが、彼女の表情はまさしく初対面の人を見るものだった。その言葉と表情が、安堵と安心から俺を現実に引きずり戻す。
(はは……そうだよな。覚えているハズもないか)
あの日からもうだいぶ経つ。俺にとっては衝撃的な記憶だが、彼女にとっては単に落とし物を届けただけ。俺の顔を忘れているのも当然と言っていい。
どうしよう、告げるべきか。いやあの時警察にいた男が急に目の前に現れたらどう思うだろうか? 俺が彼女なら正直怖いと思う。ついでに言えば俺が俺でも怖いと思う。なんだか変なことを言っている気もするが、その程度には怖いはずだ。
じゃあこのまま黙っているのか。それはそれで誠実さに欠ける気がする。そもそもケータイを拾ってもらったことに、俺はとんでもなく感謝している。当たり前の話だけれどそれについてももっとしっかりと感謝をしたい。
そうやって悩んでいるうちに時が過ぎていたようで、お互いの顔を黙って見ること数秒。『二週間ほど前、ケータイを拾ってもらった者です』と俺が身分を明かすことを決めた瞬間だった。
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