36: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:29:08.30 ID:p4U+w2zG0
『……やることは、変わらないよね』
これは! という女の子を説得し、連れてくること。それしか思い浮かばなかった。むしろそれしか俺にはないってことでもある。ある意味簡単な話になった。やったな。
問題はそれが限りなく難しいことなんだけれども。
『はぁぁぁぁぁぁ……』
馬鹿のように長い長い溜息をついて、俺はゆっくりと立ち上がった。ひどく憂欝だ。心が動かない。心に引きずられて、なんだか体も動かない。
その理由は分かっていた。
――居ないんだ。彼女ほど、心の動く人が。
ずっと街中を歩き回った。それぐらい歩けば、最低でも一人くらいこれは! って人が見つかった。あの日までは。
けれどもただの一人さえ、俺は声をかけることができなかった。……違うな、それは正確じゃない。声をかけなかった。彼女に勝るとも劣らず、なんて思えた人が見つからなかったから。
俺は妥協をしない。絶対に妥協をしない。これは“持たざる者”である俺ができる数少ないことだ。“持てる限り”だ。これまでも、そしてこれからも。
彼女に断られていたのなら割り切って、諦めもついたかもしれない。だって割り切ることと妥協には天と地ほどの差があるのだ。妥協は中途半端で、諦めは勇気ある選択だと俺は思っている。けれども俺は断られることさえできていない。これじゃダメだ。
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