45: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:33:57.20 ID:p4U+w2zG0
それからの俺はきっと、奇怪な存在だっただろう。夕方の電車の中、学生たちの帰りに混じって社会人が一人、ビニルフィルムで巻かれただけの花を一輪もってたたずんでいる。
ちょいちょい突き刺さっては離れていく視線がとても痛かった。最寄り駅で降りてからは人気も減り、その視線もなくなっている。
アパートへの路地を一つ、二つと曲がって鍵を取り出した。鉄階段を上り、突き当りの自分の部屋を開ける。夕焼けに染まった1Kの部屋が出迎えてくれた。
着ていたスーツをハンガーに吊るしながら、手に持った花をどうしようかと思って、そう言えばキッチンシンクに洗ったペットボトルを乾かしていたなと思い出す。
『ペットボトル工作なんて、小坊の時以来かぁ』
独語しながらちょうどいい長さになるように、ペットボトルをカッターナイフで切っていく。結構堅かったので真っすぐ切れず、出来上がりはずいぶんと不格好なものになってしまった。
そんなペットボトル花瓶に水を入れて買った花を挿し、ちゃぶ台に置いた。殺風景な部屋に青紫色の花弁がひどく場違いなものに見えるけれど、
『……これはこれで、良いものかもしれないな』
なんて思った。一人暮らしには花を活けると気分が上向きになるからおススメだ、なんてどこかで聞いた気もする。確かにそうかもしれない。
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