44: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/15(木) 16:33:26.20 ID:p4U+w2zG0
そしてどこか胡乱な目のまま俺を見据えながら、
「要るの、要らないの?」
変わらずキツめの調子で聞いてくるので、ほとんど反射的に、
『あっ、えっと。そ、そのままで大丈夫です!』
俺は答えた。まったく、これじゃどっちが大人か分かったものじゃない……。取り出した財布から数少ない野口さんを取り出して支払いを済ませれば、おつりと花を受け取る。
もっとも、花を受け取ったところで活ける花瓶なんてとこにもないんだけれど。
『あ、ありがとうございます……』
お礼の言葉を告げた。返ってきたのは、
「……ありがとうございました」
という若干憮然とした言葉。一応今のところは客として扱ってくれているらしい。であれば、もう一度スカウトしようとは、とてもじゃないけれども思えなかった。
せめて彼女からの心象だけは良くしておきたい。それは姑息な考えと言われればそうなのだと思う。打算がないとは言わないし、言えない。けれどそれとはまったく別の、通すべき何かのために俺は少しだけ会釈して、
『それじゃあ……』
まるで後ろ髪を引かれるように、重い足取りで花屋を後にする。手に持った花がひどく重く感じる。振り返ることはしなかった。
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