鷺沢文香「本に、命を」
1- 20
21: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:01:33.94 ID:UfnhAP/w0
…埃。
山に積もっていた埃が一斉に舞い、横たわるプロデューサーさんなどおかまいなしに降り戻った結果です。
掃除の手間を惜しんだツケが、よもや、こんなカタチで追い打ちにくるなんて。
ますますもって急がねばなりませんが、この分ではハンカチ1つではとても足りません。
これでマスクが残っていれば出血も埃も止められるのに、と無い物を望んでも仕方ないのです。
以下略 AAS



22: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:02:04.46 ID:UfnhAP/w0
いつものようにストールがあればその補助ができたのですが、生憎と今日は置いてきてしまっています。
余計な言い訳のために御洒落を拒絶し着飾ってこなかったことが裏目となりました。

更には、立ち上がったは良いものの、
立ったままで居るのが辛そうにプロデューサーさんが膝を折りながらもたれかかってきます。
以下略 AAS



23: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:02:42.06 ID:UfnhAP/w0
迷っている時間はありません。

私は頭を抱き留めたまま、プロデューサーさんと一緒に座り込みます。
床にお尻をつけると、私は後ずさりしました。
せめて少しでも守ろうと、顔を密着させたまま。
以下略 AAS



24: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:03:24.38 ID:UfnhAP/w0
そんなことを考えていると、ぬらり、ぬちょりと染み広がる生ぬるさ。
止まらない出血に痛手の深さを想うとともに、濡れ広がる感覚と温度に、
…まるで粗相をしてしまったように感じてしまって、
ぞくりと背中を駆ける気恥ずかしさに、たまらず少し身震いしました。

以下略 AAS



25: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:04:08.55 ID:UfnhAP/w0
私は視線を落とします。
とは言っても、いまこんな事をするのはプロデューサーさんくらいで、
視界に映ったのはやはり彼が絶え絶えに伸ばした腕で、
まるで絞め技をかけられて降参のタップをするプロレスラーのように、優しく力なく再びぽふぽふと。

以下略 AAS



26: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:04:58.54 ID:UfnhAP/w0
不思議なことに、今の今までもっと至近距離に顔があって、むしろ強く強く触れていたにも関わらず、
こうして丸見えポーズの方が恥じらいを呼び起こすのです。

お見苦しいところをと脚を閉じながら言うと、プロデューサーさんも気付いたようで、
どことなしに視線を横へと向けました。
以下略 AAS



27: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:05:24.81 ID:UfnhAP/w0
叔父さんには事情を説明し、急ぎではないからとのことで運び出しは後日に私だけで行いました。

心配だった血の汚れも問題なかったようです。
というのも、ほとんどが厚く積もった埃に吸着されていましたから。
飛沫咳の原因が、飛散血から守る役目も果たすとは、何たる皮肉でしょうか。
以下略 AAS



28: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:05:58.22 ID:UfnhAP/w0
あれからしばらく経ちます。
今日もお仕事で一緒だったのですが、プロデューサーさんは、今日も私と眼を合わせてくれませんでした。
とはいえ、それが表す意味を理解できない私ではありません。

確かに以前のままの私では、気付けなかったことでしょう。
以下略 AAS



29: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:06:27.16 ID:UfnhAP/w0
事務所の資料室、という名目の、もはや仮眠で使われるばかりの畳部屋。
私はそこに腰を下ろし、両の膝を立てて座り、彼を待っていました。

彼の視線が意味する答え。
ともすれば自惚れめいた考えに、それでも確信を感じて。そうして今日、私は行動に起こして。
以下略 AAS



30: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:07:04.30 ID:UfnhAP/w0
部屋へと入り、後ろ手に扉を閉めた彼が、そのまま微動だにせずに私を見て。
瞬間、本当に、…本当に、久しぶりに眼があいました。

ああ、ああ、私のために、私のメッセージを読み解き、私を見てくれた。
いわゆる推理小説で、探偵に追い詰められた怪盗も、もしかしたらこんな昂揚感を抱くものかも知れません。
以下略 AAS



31: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:07:33.67 ID:UfnhAP/w0
そう、私がしたことは、彼の本に栞を挟んだ、ただそれだけ。
紅く朱い紙を重ね、開きグセを付けてしまわないようになるべく薄さを保ち、
それでいて丈夫さも求めた、欲望をこれでもかと詰め込んだ栞。
その栞に、誰が所有するのかすぐわかるよう、彼の名を書き記して。

以下略 AAS



46Res/41.65 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice