鷺沢文香「本に、命を」
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27: ◆jEbRvHU8C2[sage saga]
2019/07/14(日) 16:05:24.81 ID:UfnhAP/w0
叔父さんには事情を説明し、急ぎではないからとのことで運び出しは後日に私だけで行いました。

心配だった血の汚れも問題なかったようです。
というのも、ほとんどが厚く積もった埃に吸着されていましたから。
飛沫咳の原因が、飛散血から守る役目も果たすとは、何たる皮肉でしょうか。
そんな血埃を払いながら1冊1冊を拾い重ねていきます。

また開かれたり逆さまになっているのもなく、幸いにも本は無事でした。
これでプロデューサーさんにも報告ができる、と安堵の溜息は、しかし1冊に塞がれてしまいます。

その1冊を拾い上げ、埃に塗れながらもしつこく繋がり揺れるクモの巣を払いながら表紙をめくると、
当然のような顔をして、ぱたんと音を立ててページが開きました。

あのとき私が立ち上がった後、プロデューサーさんの顔を覆ったこの1冊。
埃守護の届かない内ページへ晒し触れたために、痛くも痕を残すことになりました。
今回の目的のものではなく、いつ買い手が現れるかわからない本で、
そのうえ血を吸ったページがあるとくれば、その扱いは言わずもがな。
このまま寝かせていても場所を取るだけで値段ももはや付けられないからと
叔父さんは譲ろうと提案してくれたのですが、
そうなった原因はどうあれ売りモノにならなくしたのは私だからと問答を重ねて、
今日やっと私が押し切るカタチで買い取って自室へ持ち帰ったところです。


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