【ミリマス】私という撫子の
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7: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:12:11.64 ID:RAUxaTtJ0
 *
 
 五歳になってすぐのことだった。年が明けてもまだまだ寒い日が続いていて、外には雪が積もっていた。家の中から見ると柔らかそうに見える雪は実際のところ冷たくて硬い。

『Emily!』
以下略 AAS



8: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:12:58.96 ID:RAUxaTtJ0
『いつも帰りが遅いから休みくらいはエミリーをどこかに連れて行ってあげたいのよ』

 お母さんがエプロンで手を拭きながら私に声をかける。持っていたお人形をそっと床に置いて確かめるためにお父さんの顔を覗き込んだ。

『そうなの?』
以下略 AAS



9: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:13:50.13 ID:RAUxaTtJ0
 車で揺られて三十分ほど。
 着いたのは大きな建物。その門の前に置かれた看板には『Japan Festival』の文字。また、知らない言葉だ。前を歩くお父さんに尋ねる。

『Japanってなに?』
『Nihonのことだよ』
以下略 AAS



10: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:15:15.85 ID:RAUxaTtJ0
 次に入った部屋で見たのは、家の中で見たことのある器に似たなにかだった。いつかお父さんに教えてもらった気がする。
 確か、Toukiだったような……。合っているかを確かめるためにその単語を口にするとさっきまで笑顔だったお父さんの頬が溶けそうなほどに緩んでいた。
 展示品に当たらないようにゆっくり歩いていると、一つのToukiが視界に入る。なぜだか惹かれた。

『家にあるのと似てる……』
以下略 AAS



11: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:16:10.83 ID:RAUxaTtJ0
 そうして入った次の部屋の光景に。
 私は思わず息を呑んだ。心が奪われた。

 見渡す限り、全く見たことのない景色と色と知らない世界で囲まれている。
 木の棒にかけられた色とりどりの布がたくさん飾られていて、それはまるでカーテンみたいで。だけどカーテンのように薄くはなくて、波打ってもいなくて。
以下略 AAS



12: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:17:03.49 ID:RAUxaTtJ0
『ほら。ああいう風に着るんだ』

 お父さんの指が示した先にいた女性。
 少しくすんだような赤色のKimonoを身にまとい、Obiというらしいものを腰に巻いていた。

以下略 AAS



13: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:17:59.92 ID:RAUxaTtJ0
 ――ヤマトナデシコ
 
 お父さんが口にしたその言葉に。
 私は出会ってしまった。知ってしまった。
 自分がいちばん美しいと感じたものの名前を聞いてしまった。
以下略 AAS



14: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:19:44.49 ID:RAUxaTtJ0
『あら、エミリー。ヤマトナデシコっていうのはね……』
『なれるよ。エミリーなら』

 お母さんの言葉を遮ってお父さんが私の頭を撫でる。その手はあたたかくて優しくて、いつか本当になれる気がした。

以下略 AAS



15: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:21:01.21 ID:RAUxaTtJ0
 なんかちがう。

 第一印象はそういうものだった。

 Kimonoを着ているというよりもKimonoに着られているみたいで。さっきの人のような美しさはどこにもなくて。なにより鮮やかな赤色に黄金色の髪の毛はひどく浮いていた。
以下略 AAS



16: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:22:08.10 ID:RAUxaTtJ0
 ❀
 
 その日から私は人が変わったように日本のことばかりを調べるようになった。父が日本を好きということもあって一歩を踏み込むのは容易かった。

 初めは語学からだった。
以下略 AAS



17: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:22:58.93 ID:RAUxaTtJ0
 だけど現実はすぐに花開くほど甘くも優しくもなくて。
 私のそれは花どころか芽すら出ない。憧れの花は部屋の中にこうしてあるはずなのに何故だか遠くて、靄がかかっているようによく見えなかった。
 
 日本語を学ぶのは楽しいけれどそれと同じくらいに難しい。そんな言語の壁はどうしようもなく高いものだったけれど、これを乗り越えなければ芽は絶対に出ないのだと言い聞かせて必死に勉強する。

以下略 AAS



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