8: ◆DbvMVEE3z2[sage saga]
2019/06/16(日) 00:12:58.96 ID:RAUxaTtJ0
『いつも帰りが遅いから休みくらいはエミリーをどこかに連れて行ってあげたいのよ』
お母さんがエプロンで手を拭きながら私に声をかける。持っていたお人形をそっと床に置いて確かめるためにお父さんの顔を覗き込んだ。
『そうなの?』
『まぁ、それもあるけど……。一番はNihonの文化をエミリーに見てほしいなって思ったから』
照れたように頬を掻きながら言ったお父さんは相変わらず微笑んでいる。
お父さんが私に見せたいものってなんだろうか。そんなに良いものなのだろうか。
Nihonが何かを私は全然知らないけれど。
いつも落ち着いたお父さんが目を輝かせて話すそのNihonは。その国は。
なんだかとても素敵なもののように思えてしまって。
『……じゃあ、行く!』
わからないことは知りたいと思ってしまう性格だった私はそう答えた。
そんなに素敵なら見てみたい。それほど魅力的なら知ってみたい。
『ほんとか!? 母さんも……』
『はいはい、行きますよ』
私の返事を聞くなり、嬉しそうな声でお父さんは台所に立っていたお母さんの方を振り返る。お父さんと目が合って答えたお母さんは溜息混じりだったけれど優しい顔をしていた。
すぐに出かけると決まったので、私は立ち上がってお人形はおもちゃ箱の中に片づける。お母さんが選んでくれたよそゆきの洋服に袖を通して、髪の毛を二つに結んでもらった
玄関でお気に入りのブーツを履いて、雪の降るなか傘も差さずにお父さんの車に乗った。
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