132:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:15:35.68 ID:YWfCY9A20
それは、みんなにとっての山吹沙綾をこの世界に返すこと。
なんだかおかしな響きだな、と思って、沙綾はちょっとだけ笑う。それから夜空に目を移すと、一筋の流星が光を放った。
133:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:16:18.17 ID:YWfCY9A20
屋上で星空を眺め終わり、沙綾は家路を歩く。商店街にさしかかる前に、みんなとは手を振り、改めて「じゃあね」と伝えた。今はひとりの道だ。
きょろきょろと街並みを眺め、時おり上空の星たちを見つめ、夜の道を歩いて商店街に入る。もうすっかり歩き慣れた家までの順路に、少しだけノスタルジックな気持ちになった。
134:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:17:20.37 ID:YWfCY9A20
「父さん、そろそろ休んだ方がいいんじゃない?」
流れてくるギターサウンドに耳を傾けながら言う。
135:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:17:52.43 ID:YWfCY9A20
父にそう言われたのはこれで何度目だろうか。こちらの世界に来てから大体ひと月半だけど、その間にもう数えきれないくらい、そんな風なことを言われた。
詳しくは知らないけれど、どうにもこちらの沙綾はよほどワガママを言わない性格をしているらしい。この短期間で耳にタコが出来るくらい聞いているのだから、きっと相当だ。
136:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:18:29.67 ID:YWfCY9A20
二階に上がって、寝る支度を整える。それから三階まで階段を上って、自分の部屋に向かう前に、三つ子の弟たちの部屋の扉をそっと開く。
陸海空の三人はぐっすり眠っていた。ただ、三つ並んだ敷布団の上に掛布団がない。三人が三人とも、それぞれの寝相の悪さを発揮して、掛布団を蹴っ飛ばしていた。
137:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:19:14.26 ID:YWfCY9A20
妙に確かな輪郭を持った感覚。その気持ちの赴くままに、沙綾はみんなに別れを告げた。やけに改まった態度で「じゃあね」なんて言ったせいか、そこでもまたカスミが心配そうな顔をしていたのがやけに心に残った。
秋の夜空の下、瞬く星を見上げながら、いつの間にか見慣れていた街をひとり歩く。
138:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:20:10.05 ID:YWfCY9A20
――おうおう、オレさまを忘れるとは結構な扱いじゃないか。
139:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:20:45.14 ID:YWfCY9A20
そんな家路をたどり、沙綾はやまぶきベーカリーに帰り着く。お店の明かりはとっくに消えていた。裏の勝手口に回り込むと、そちらの窓からは明かりが漏れている。
勝手口のドアを静かに開いて、沙綾は家に入る。
140:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:21:46.43 ID:YWfCY9A20
みんなと別れて、ライオン丸くんと言葉を交わした(気がした)帰り道。その道すがら、頭の隅ではずっとそのことを考えていた。だけど、いざこうして母の姿を目前にすると、何にも言葉が出てこない。
言わなければいけないことは、感謝とか、謝罪とか……別れの言葉とか、だ。
141:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:22:23.67 ID:YWfCY9A20
「どうしたの、急に?」
「……ううん、言ってみたかった……だけ」
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