135:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:17:52.43 ID:YWfCY9A20
父にそう言われたのはこれで何度目だろうか。こちらの世界に来てから大体ひと月半だけど、その間にもう数えきれないくらい、そんな風なことを言われた。
詳しくは知らないけれど、どうにもこちらの沙綾はよほどワガママを言わない性格をしているらしい。この短期間で耳にタコが出来るくらい聞いているのだから、きっと相当だ。
もっと素直に、やりたいことはやりたいって言えばいいのに。まったく、誰に似たんだろうか……なんてことを考えながら、沙綾は言葉を紡ぐ。
「……ちゃんと伝えるよ」
「ん? なんだって?」
「なんでも。あんまり無理しちゃダメだよ?」
「おう、ありがとな」
ニカッと父は笑顔を浮かべる。その顔に、沙綾は少しだけ迷ってから「こちらこそ」と小さく返した。それから、その言葉に突っ込まれる前に踵を返す。
「おやすみ、父さん」
「ああ、おやすみ」
肩越しに言葉を投げる。父はひらひらと手を振って応えてくれる。沙綾も軽く手を振って、厨房を後にした。
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