140:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:21:46.43 ID:YWfCY9A20
みんなと別れて、ライオン丸くんと言葉を交わした(気がした)帰り道。その道すがら、頭の隅ではずっとそのことを考えていた。だけど、いざこうして母の姿を目前にすると、何にも言葉が出てこない。
言わなければいけないことは、感謝とか、謝罪とか……別れの言葉とか、だ。
それらがぐるぐる頭をめぐる。胸の中に降り積もる。だけど、一向に口からは出て行こうとしない。どうしたものか、と思っているうちに、洗い物を終えた母が、タオルで手を拭きながら声をかけてきた。
「体調はもう大丈夫?」
「あ、う……うん、平気」
「そう、ならよかった。でもあんまり無理しちゃダメよ? 最近は冷え込むようになってきたし」
「……うん」
『お母さんが言うの、それ? お母さんこそ、もう二度と入院しないでいいように大事にしてよね』
そんな軽口を返そうとしたけど、口から出てきたのは小さな相づちだけ。ふぅ、と息を吐き出して、沙綾はテーブルに視線を落とした。
「どうかしたの?」
椅子を引く音が聞こえて、右隣に視線を移せば、少し心配そうな顔で自分を覗き込む母の顔が映る。沙綾は胸が詰まって、余計に声が出せなくなってしまった。
(……でも)
言葉と感情がうねり、胸中で大渋滞を起こす。でも、それでも言わなくちゃ。唐突だし、わけ分からなくて不振に思われるかもだけど、これだけは言わなくちゃ。
すー、はー……と少し大きく呼吸をして、そして、
「ありがとう」
と、沙綾は小さく、呟くように声にした。
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