65: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:01:52.00 ID:uFnZQdOAo
*
ノイズ混じりの裂けるようなギターソロ、そしてくぐもったベース音が頭にガンガン響きわたり、クラクラした心地すら覚える。
いつも浴びているはずの大音量も、ステージ上と観客スペースでは感じ方がこうも違うのかとぼんやり考えながら。
66: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:05:52.38 ID:uFnZQdOAo
「休憩中か?」
曇ったスポットライトの光を長時間見つめていたせいか、慣れない暗闇の先から話しかけられても姿が認識できない。
ただ、その声には聞き覚えがあった。
67: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:07:51.15 ID:uFnZQdOAo
「長いことここで頑張ってきました……いつまで経っても全然売れないし、昔の同僚は結婚とかしていってるのに、ナナはずっと変わらずアイドルやってるまま
……きっと笑われちゃいますよね」
珍しくこんなにあっさりと弱音を吐けることが、自分のことながら不思議に思えてくる。
68: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:12:11.89 ID:uFnZQdOAo
「アイドルっていうのは弱肉強食です。 表舞台に立つチャンスに恵まれなかった私は、こういう日陰の場所に追いやられる……
私はただ、大人になれずにいつまでも夢にしがみついているだけの惨めな“ウサミン星人”」
「ウサミン星人ねぇ……」
「メルヘンだの永遠の17歳だの、バカバカしいと思いますか? だったらそれでもいいんです。
69: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:13:51.20 ID:uFnZQdOAo
「これからどうしましょう。 他に歌わせてくれる劇場を探さなきゃ……
もっとも、こんな実績も何もないアイドル、受け入れてくれる場所なんてないかもしれませんけど……」
──もし他の劇場が見つからなかったら、そのときこそ本当に、メルヘンアイドルは死ぬんだろうな。
70: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:15:19.24 ID:uFnZQdOAo
頭を抱えたまま固まった菜々は、そのままのポーズで男を見上げた。
「ちょうどあんたみたいなのを探してたんだ、俺。 よかったら、あんたにぴったりな場所があるんだけど、興味ある?」
「へ?」
71: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:17:03.96 ID:uFnZQdOAo
*
城のように絢爛な社屋、広大な敷地、すれ違う女性たちは皆、菜々も一度は目にしたことのある有名人。
見るもの全てが彼女を圧倒する。
72: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:19:08.03 ID:uFnZQdOAo
「うん、あんたほど面白いアイドルはそうそういない」
「わ、私は一応真剣なんですが……」
「褒めてるんだよ」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
73: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:22:13.75 ID:uFnZQdOAo
プロデューサーに気づいた少女が、すっくと立ち上がってペコリと一礼する。
「プロデューサーさん、お疲れさまです」
「おう、長富。 新人を連れてきたから、紹介するわ」
74: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:23:11.90 ID:uFnZQdOAo
「ああやって、自分らしく! っていう感じで立派に活動してらっしゃるのがとっても羨ましくて。 私も見習いたいなって、思っていました」
「……そ、そんな風に思ってもらえてたなんて……ナナ、嬉しいです!」
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