【デレマス】 偶像ルネッサンス
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65: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:01:52.00 ID:uFnZQdOAo
 
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ノイズ混じりの裂けるようなギターソロ、そしてくぐもったベース音が頭にガンガン響きわたり、クラクラした心地すら覚える。
いつも浴びているはずの大音量も、ステージ上と観客スペースでは感じ方がこうも違うのかとぼんやり考えながら。

数日経って、菜々は出番の合間、衣装の上から一枚だけ羽織って控え室から飛び出し、同僚アイドルのステージを眺めていた。

菜々が数年来立ち続けたこのステージも、どうやらあと一月待たずになくなってしまうらしい。
今になって考えれば、日々のあの客足で大丈夫かと早々に心配しておくべきだったのに、そこまで経営が苦しいとは想像していなかった。
要するに自分のことのみで精一杯だったのだ。
劇場の管理人は優しい男だし、これまで菜々自身も良くしてもらっていた。お人よしの少々気弱なおじさまだ。
だがそういう甘さで乗り切れるほど、この地下アイドルの世界も優しくなかったということだ。
そして知りもせずただ闇雲にアイドルをさせてもらっていた菜々は、それよりもっと甘かったというだけの話だ。
いい歳しておいて、やはり現実が見えていなかった――自覚するにつれ、いよいよ自分がこのままで良いのか分からなくなってくる。

――そういえば、あの子、ここがなくなったらどうするんだろう。

数少ない観客に向かって愛想笑いを振りまいている若い彼女を――もっとも追っかけは菜々のそれより数人多い――少しだけ案じてみる。

もともと片手で数えるくらいしかここで活動するアイドルはいないが、仲間とそのことを話すと返事は二通り存在した。
ここがなくなる前にと既に別の地下劇場と話をつけ、“移籍”を決めた者。そして、よい機だとアイドル活動自体を卒業する者。

少なくともみんな次にどうすべきかちゃんと考えがあって、既にアクションを起こしている。
そのどちらとも決めかねたままの菜々には、今更に自分が意味もなく日々を浪費しているだけのような気がした。焦燥感でなんだか肩が凝りそうになる。



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