66: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:05:52.38 ID:uFnZQdOAo
「休憩中か?」
曇ったスポットライトの光を長時間見つめていたせいか、慣れない暗闇の先から話しかけられても姿が認識できない。
ただ、その声には聞き覚えがあった。
「あっ、この間の……あれから、何度か来てくださってますよね」
「どうした? 辛気くさい顔して」
「あ、いえ、なんでもないんです! すみません」
思わず男の居ない方を向いて、顔をパンパンと叩いた。
「今日は、あの女の子とは一緒じゃないんですか?」
「あいつは今日は別用でな。 俺だけここに来た」
「……そうなんですね」
──彼もこういう場所が好きなんだろうか?
サイリウムを両手に握って必死になり身体を振り回す他のファンたちとは違い、観客席の端っこで男はただじっとして、
別段楽しんでいるそぶりも見せずただ菜々の隣に立っている。
「せっかくファンになっていただいたのに、申し訳ないんですが……ここ、来月で閉鎖しちゃうみたいです」
「へぇ、そうなんだ」
驚くでもなく、寂しそうな菜々を慰めるでもなく、ただ無関心そうに話を聞いているのみ。
けれども下手に気を遣われるよりはよほど居心地は悪くなくて、時折男の顔を見るように何度か振り返りながら、菜々はそのままポツポツと続けていく。
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