68: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:12:11.89 ID:uFnZQdOAo
「アイドルっていうのは弱肉強食です。 表舞台に立つチャンスに恵まれなかった私は、こういう日陰の場所に追いやられる……
私はただ、大人になれずにいつまでも夢にしがみついているだけの惨めな“ウサミン星人”」
「ウサミン星人ねぇ……」
「メルヘンだの永遠の17歳だの、バカバカしいと思いますか? だったらそれでもいいんです。
それが子供の頃からの憧れでした……だから、こうやってずっとそれを守ってアイドルをやっているんです」
無意識に語気が強まるのを感じ取って、とっさに冷静さを保つよう努めた。
「自分のアイドル像を認めてくれる人が少ないのなんて分かってるんです。 時にはバカにされたり、笑われたりなんて普通です。
それでもナナは、自分にだけは嘘はつきたくないと思って……これでも一生懸命やってきました」
「……だろうね。 あんたみたいなの、今時珍しいと思う」
「やってきたつもりだったんですが……こんな小さなライブハウスすら埋められないし、倒産も救えない。
ナナ、ようやく現実っていうものが見えてきたような気がします」
「…………」
「このまま頑張ってもどうせダメなままなんだろうなって、正直思ってるんです。
ナナがアイドルとして本当の意味で輝く日は来ないかも知れない……だけど、続けたいんです」
こんなことを考えているとどうしても息が詰まって、思い切り吐き出したくなってしまい、大げさにため息をつく。
──いつもなら、ファンに向かってこんな悩みが口から出てしまうことなんて絶対ないのに。
いつの間にか下を向いてうなだれていた自分の頭に気がつき、ゆっくりと上げた。
「アイドル、好きだから。 自分でいる方法がこれしかないんです、ナナには」
じっと話を聞いていた男が、無言でこちらを見たのを横目で感じた。
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