58: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:49:41.19 ID:LYkOi8G4o
それでも自分だけは投げだしたくなくて、今日まで地道にアイドルをやってきた。
一度も報われないまま、気づけば菜々も17歳。
来年には17歳になってしまうし、あと3年もすればすっかり17歳。
さすがに17歳ともなれば、身体的にもこうやって自主的にアイドル活動を続けるのは困難になってくるかも知れない。
59: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:50:49.79 ID:LYkOi8G4o
──────
60: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:52:29.74 ID:LYkOi8G4o
*
今日のステージはいつにも増して観客が少ない。
両手で数えられる程度だろうか? ほとんどが常連の、見覚えのあるファンの面々だった。
61: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:53:56.69 ID:LYkOi8G4o
*
「以上! 新曲『ウサミン伝説最終章・第4話・その8』を聴いていただきました−!
みんなー、自主制作CD、良かったら買ってくださーい!」
62: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:55:22.53 ID:LYkOi8G4o
「あれあれ、あの人たち、帰られないんですかね?」
「……あ、あぁ……そういえばそうだね」
「あの、私声かけてきます!」
「そうかい……なら頼むよ」
63: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:56:48.83 ID:LYkOi8G4o
心の奥底がざわつくのをはっきりと感じた。
名も知らぬその少女は、キリッとした細い眉と対照的な、穏やかなる下がり目。強さと儚さを同時に含んだような、特徴的で綺麗な顔立ち。
彼女が美人だから目を引かれたのだろうか?
──それもあるだろうけど、なんだか……。
64: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:58:46.88 ID:LYkOi8G4o
一日で二人以上のファン──たまたま来てみただけとも言っていたが、一度会えば彼女にとってはもう大切な──と交流をしたのは久しぶりだった。
それだけで菜々のこの一瞬は満たされたものになる。
先の見えないアイドル活動であったとしても、少なくとも明日への活力にはなる。
65: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:01:52.00 ID:uFnZQdOAo
*
ノイズ混じりの裂けるようなギターソロ、そしてくぐもったベース音が頭にガンガン響きわたり、クラクラした心地すら覚える。
いつも浴びているはずの大音量も、ステージ上と観客スペースでは感じ方がこうも違うのかとぼんやり考えながら。
66: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:05:52.38 ID:uFnZQdOAo
「休憩中か?」
曇ったスポットライトの光を長時間見つめていたせいか、慣れない暗闇の先から話しかけられても姿が認識できない。
ただ、その声には聞き覚えがあった。
67: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/29(月) 00:07:51.15 ID:uFnZQdOAo
「長いことここで頑張ってきました……いつまで経っても全然売れないし、昔の同僚は結婚とかしていってるのに、ナナはずっと変わらずアイドルやってるまま
……きっと笑われちゃいますよね」
珍しくこんなにあっさりと弱音を吐けることが、自分のことながら不思議に思えてくる。
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