【デレマス】 偶像ルネッサンス
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60: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:52:29.74 ID:LYkOi8G4o
 
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今日のステージはいつにも増して観客が少ない。
両手で数えられる程度だろうか? ほとんどが常連の、見覚えのあるファンの面々だった。
平日とはいえ、余計に広く感じるこの地下劇場を、それでも菜々は最大限に盛り上げようと努めた。
菜々にとっては毎日こなしているこのステージでも、今いるこの観客、彼らにとっては彼女を見る最後の機会かもしれない。
この場にいる全員に心から楽しんで帰ってもらいたい。それがアイドルとしての義務だと菜々は心得ていた。

何曲か連続でパフォーマンスをしてきたので、すでに声は枯れる寸前で、
腕振りやジャンプといった一つ一つの振り付けに筋肉は軋み、削り取られていく心地すらする。
滝のような汗は目に入って視界も歪むし、体格に似合うサイズしかないであろう肺の膨縮はもはや息継ぎすら満足にこなすに足りない上、
膝の裏はかすかに笑っているのが分かる。
ライブのペース配分には気を遣う方でいるつもりだが、いざステージに上がればそんな事は関係なしにめいっぱい動き回るのでいつもこうなってしまうのだ。
ただ、この感覚──全身全霊でアイドルをやっているこの瞬間が、菜々が唯一生きている実感を得られる場所だった。
それに今だけは、後ろ暗いことも全て忘れて歌と踊りに集中できる。

大ジャンプの着地の衝撃で、くたびれたうさ耳のアクセサリーがずり落ちそうになるのを反射的に左手で支えてやった。
間奏が進み、大サビに入る直前、踊っている菜々から見て正面奥の扉が頼りなさげに開かれ、新たに2人お客さんがやって来たのが目に入る。

「さぁ最後ですよっ! みんな、盛り上がって行きましょうーっ!!」

このラストのサビだけでも。最高の1フレーズを腹から送り出して、見に来て良かったと思ってもらいたい。脳内を次の歌詞が走り抜ける。
両足の裏を舞台に叩きつけ、むんと踏ん張り、ボコボコにへこんだマイクを構え、左腕を高く掲げた。



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