63: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/04/28(日) 23:56:48.83 ID:LYkOi8G4o
心の奥底がざわつくのをはっきりと感じた。
名も知らぬその少女は、キリッとした細い眉と対照的な、穏やかなる下がり目。強さと儚さを同時に含んだような、特徴的で綺麗な顔立ち。
彼女が美人だから目を引かれたのだろうか?
──それもあるだろうけど、なんだか……。
確信の持てない引っかかりを表情の後ろへ隠すように、菜々はあくまでいつも通りの営業スマイルを貫いた。
「……あ、もしかして握手をご希望ですか? でしたら、ささ、こちらへ!」
「いや、別に握手は……なぁ、長富」
「あ、いえ……その」
「……あら……違うんですね……」
今度は分かりやすくがっくりと肩を落とす。
「……あ、じゃあせっかくなので握手、お願いします」
「あ、ほ、ホントですか!? じゃなくて……あはは……ありがとうございます!」
少し気を遣われてしまったかなと反省しつつも、ファンサービスは張り切って積極的にリードしていく。それが地下アイドル、安部菜々の心得だ。
少女と、渋々応じてくれた連れの男とも、ニッコリ笑顔と共に腕ごとぶんぶん振り回さん勢いで握手を交わした。
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