3:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 00:59:19.72 ID:M4jexkrI0
「氷川さん」と、代わりに私を呼びかける声が響く。そちらへ視線を巡らせると、三十代半ばの男性……この書店の店長が、いつものように何も考えていないような顔で立っていた。
「はい。……ああ、もう上がりの時間ですか」
4:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 00:59:59.48 ID:M4jexkrI0
◆
東北の中でも賑わう都市。その駅から歩いて十分弱の書店。そこが今の私……二十三歳の氷川紗夜が勤めている場所だ。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:00:38.44 ID:M4jexkrI0
カゴを片手に店内を練り歩き、おかずになるものを探す。鮮魚売り場で珍しくサンマが安くなっていた。三尾の開きがまとめられたパックをカゴに入れる。
それから青果と総菜を見て回り、一人暮らしの部屋の冷蔵庫の中身を頭に思い浮かべながら、商品を手に取っていく。途中、スナックコーナーでポテトチップスの袋と一分ほど見つめ合って、それは結局カゴには入れずレジへ向かった。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:01:29.97 ID:M4jexkrI0
◆
いつかの私の目の前にはきっと壁があった。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:02:11.17 ID:M4jexkrI0
◆
「カバーはお付けしますか?」
8:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:02:41.84 ID:M4jexkrI0
今日も今日とて何でもないように仕事をこなしていく。日常が思い出の上にどんどん積み重ねられていく。
そうやって味気ない日々に潰されていく思い出たち。その一番下に、今も潰えず残っているものはなんだろう。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:03:09.53 ID:M4jexkrI0
◆
休日。気付いたら十二月になっていて、気付いたら年の瀬だった。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:04:00.18 ID:M4jexkrI0
◆
「氷川さんって東京出身なんですよね」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:04:35.72 ID:M4jexkrI0
◆
二月にしては陽射しが少しだけ柔らかくて、窓から差し込むその光を受けながら、ソファに腰かけて本を読んでいた。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:05:13.73 ID:M4jexkrI0
◆
東北地方はどんな場所でも冬に雪が積もるんだと勝手に思っていたけど、太平洋側に位置するこの都市ではそこまで激しく雪が降ることはない……というのは、一人暮らしを始めた最初の冬に知った。
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