5:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:00:38.44 ID:M4jexkrI0
カゴを片手に店内を練り歩き、おかずになるものを探す。鮮魚売り場で珍しくサンマが安くなっていた。三尾の開きがまとめられたパックをカゴに入れる。
それから青果と総菜を見て回り、一人暮らしの部屋の冷蔵庫の中身を頭に思い浮かべながら、商品を手に取っていく。途中、スナックコーナーでポテトチップスの袋と一分ほど見つめ合って、それは結局カゴには入れずレジへ向かった。
会計を済ませ、スーパーから出る。今の私が住むアパートは駅の向こう側だ。通りをまっすぐ進み、駅の改札前を通り抜けてからニ十分ほどで到着する、駅近とは言えないけれど遠いというほどでもない中途半端な場所にある。人によっては遠いとも近いとも思われる距離だろう。
ただ、私にとってそれはちょうどいい距離だ。
私は歩くのが少しだけ好きだった。何でもない日常の中を何でもないように歩いている人々の群れに混ざって、私も何でもないように歩きながら何でもないように考え事をするのが少しだけ好きだった。そうしているとどこか安心する。
そんな取るに足らないことを考えているうちに、私は今の私の住処へ辿り着く。
駐車場付き、三階建てのシンプルな外観をした鉄筋コンクリート造りのアパート。1K八畳の部屋は決して広い方ではないけれど、小ぢんまりとした空間が妙にしっくりとくる。
キッチンに置かれた小さな冷蔵庫に買ってきた食材を入れて、寝室へ足を踏み入れる。
仕事用の小さなバッグを机に置き、薄手のコートをハンガーにかける。それから部屋の片隅のエレキギターの前に立った。
紺色のボディは艶を湛えて静かに佇んでいた。それに手を伸ばそうとして、やめる。
小さく息を吐き出して、私は夕飯の準備をすることにした。
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