6:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:01:29.97 ID:M4jexkrI0
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いつかの私の目の前にはきっと壁があった。
だけど私はそれに向き合うことに頓挫して逃げだしたんだと思う。
顔を背けて、その壁が見えない場所まで一目散に走ったんだと思う。だけどそれはもしかしたら今もあるのかもしれない。ただ目に見えなくなっただけで、空気のように当たり前に、見ないけれど存在しているのかもしれない。
生まれた場所から離れ、東北の片隅で暮らしているとふとそんな考えが頭に浮かぶ。特に今日みたいに仕事が休みで、部屋で一人、ソファに座ってぼんやりしていると、中学生のころは何をしていたんだろう、高校生のころは何を考えていたんだろう、と過去を振り返ることが多い。
まず一番に頭に浮かぶのが、中学生の時にギターを始めたこと、そして高校生の時にギターを諦めたこと。その原因はなんだったろう、と考えると、決まって私は分からなくなる。
それがきっと今の私の見えない壁なんだろう。あの時の私が見ていただろう壁が色と形をなくして、今の私の目の前に素知らぬ顔で立っているんだ。
その壁に気圧されてしまうから、私はギターに触れることが出来ない。最低限の手入れはするけれど、ネックを握り、膝に乗せて弦をはじくことが出来ない。
そうしてしまったら、分かりそうなことが永遠に分からなくなってしまうような気がした。そもそも今の私にはもう手遅れなのかもしれないけれど、それを認めたくなかった。
いつまでも子供だな、と思って、自嘲の息を短く吐き出す。
今の私がこうして生まれ故郷から逃げても、私は私から逃げられない。どこまで行っても影が私につきまとう。過ぎたことは今さらどうしようもないし、取り戻せる訳もない。そうと分かっているのに「それでもいつかは」なんて思ってしまう。
私はこのギターに触れられる日がくるのだろうか。
感傷とか後悔とか、追憶のオマケについてくる火山灰みたいな塵が降り積もった部屋で、紺色のギターがある場所だけがまっさらなまま陽に当たっているような気がした。
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