7:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:02:11.17 ID:M4jexkrI0
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「カバーはお付けしますか?」
「いえ、大丈夫です」
「恐れ入ります。一点で、お会計は853円でございます」
丁寧な言葉を機械のように発して、袋に入れた小説を目の前にお客さんへ差し出す。それから代金を受け取って、お釣りを返す。袋を持って出入口へ向かった背中へ「ありがとうございました」と言葉を投げる。
生まれた街を離れ、東北の都市でこんな風に書店員をやっているだなんて、三年前の私はきっと想像もしていなかっただろう。
レジに立って、様々な本を手にした色々な人間を相手に、波風の立たないテンプレート言語を応酬する。あるいは目的の本を探す人の為にパソコンで在庫を検索したり、宣伝のためのポップを作っては本棚に飾ったり……。
そういうことは自分には一切関係のないことだと思っていた。そういう仕事があるというのは知っていたけど、自分がそれに携わることはないと思っていた。
だからこの都市にやってきて、住む場所を決めてこの仕事を始めた当初は戸惑ったものだ。昔の私であれば簡単に出来たであろうことも、今の私は色々と考えてから身体を動かさないといけないから、なかなか思うように進められない。
だけどひと月も経つと慣れてしまった。突発的なアクシデントでも起こらない限り、あまり深く考えないで言葉を発し、身体を動かすことが出来るようになった。
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