【バンドリ】無題
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11:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:04:35.72 ID:M4jexkrI0



 二月にしては陽射しが少しだけ柔らかくて、窓から差し込むその光を受けながら、ソファに腰かけて本を読んでいた。

 書店勤めではあるけれど、私は今まであまり本を読まないで生きてきた。読んでいてもよく分からないことがあったり、登場人物の行動理由がイマイチ掴めなくて投げ出すことが多かった。

 けれど今の私は分からないことだからと投げ出さず、少しだけでも向き合ってみようという気持ちがあった。だからあまり好きではない読書も休日の習慣にして、こうして文字の列へつらつらと目を通している。

 今日読んでいる本は、名前くらいは聞いたことがある作者の話だった。ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみ、書店の裏口でモデルガンを構える主人公の描写から物語は始まる。

 風に吹かれて。かなり昔に何回か聞いたことがあったような気がした。

 確かあの歌は、いくつもの疑問に対して「答えは風に吹かれているのだ」と答える歌だったと思う。少し気になって、読みかけのページに栞を挟んでから、動画サイトでその歌を聞いてみた。

 ああ、そういえばこんな歌だった。そう思いながら、何かが心に刺さるような気がしたから、曲は最後まで聞かないことにした。

 動画サイトを閉じて、それから再び本を読み進める。そして物語が最終盤に差しかかったところで、どこかで聞いたことがある話のような気がした。

 どこで聞いた話だったっけ。小説から壁掛け時計に目を移して考えていると、ハタと思い出す。そうだ、いつかに書店に買い物に来ていた二人組の男性客の話と似ている部分があったんだ。

 もうそのお客さんの顔も声も思い出せないけど、話の内容だけは頭の隅に引っかかっていた。輪廻転生だとか因果応報だとか、そういう話だ。

 もしもあのお客さんが同じ本を読んでいたとしたら、その人はどういう風にこの物語を捉え、何を考えて何を感じたんだろうか。

 少し考えてから、分かる訳ないか、と思った。

 顔も姿も思い出せない人間が、読んだかも分からないこの物語にどんな感想を抱いたか。その答えこそ風に吹かれているものだろう。




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