10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:04:00.18 ID:M4jexkrI0
◆
「氷川さんって東京出身なんですよね」
「ええ」
「やっぱり東京ってすごいんですか?」
慌ただしい年末も瞬く間に駆け抜けて、一月も中旬に差し掛かったある日の仕事中だった。書店の近所に住む大学生のアルバイトの男の子が、昼下がりの暇な時間にそんな話を振ってきた。私は少し考えてから言葉を返す。
「すごいって何がかしら? 抽象的過ぎて分からないわよ」
「ほら、やっぱ東京って言ったらアレじゃないですか。こう、電車に乗ってるだけで有名人にばったり出くわしたりとか……」
「あなたはいつの時代の人間なの? 昭和からタイムリープでもしてきたのかしら? 今日日、そんな価値観を持った変な大学生なんて日本であなただけよ?」
「氷川さん、相変わらずツッコミがキツイっすね……」
「そうかしら」
「そうっすよ。なんかこう、小さなことでもすごい責めてくる感じがします」
「そう……ごめんなさい。悪気はないのよ」
「ああいえ、謝って欲しいワケじゃないんで! むしろこう、大人の女性に叱られるのって大抵の大学生は喜びますから!」
「……謝って損した気分よ」
「おぅふ……視線と言葉の温度がまた下がった……」
「はぁ……バカなこと言ってないでキチンと働きなさい」
「はーい」
呆れたようなため息を吐き出した私に生返事をする。それから彼はノソノソと事務所へ歩いていった。
私はその背中を見送りながら、やっぱり責めていたのかな、と思った。
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