13:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:05:42.90 ID:M4jexkrI0
発車します、というのんびりとした初老の男性運転手の声。ドアが閉まる音。車内の人々のささめき合い。それらに何ともないように混ざっている私。
こうしていると、自分も普通の人間なんだなと思っていつも安心した。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:06:44.07 ID:M4jexkrI0
かの有名な伊達男の彫像が立つ本丸跡からは、白銀に覆われた街や遠くの山々が一望できた。綺麗だな、と思うより早く、足が竦んだ。
高い場所だ。ここの標高は130メートルくらいだと、一年前に書店で一度だけ目を通した観光案内の本に書いてあった。
15:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:07:19.28 ID:M4jexkrI0
◆
「あなたは……!」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:08:05.73 ID:M4jexkrI0
◆
「久しぶりの再会なのにずっとだんまりだね。どしたの? 声をかけてきたのは千聖ちゃんでしょ?」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:08:32.22 ID:M4jexkrI0
「日菜ちゃんっ、あなたね……!」
「後処理、大変だった? それは謝るよ。勝手にいなくなってごめんね。でもみんなは今も頑張れてるじゃん? テレビ見たよ。“天下のアイドルバンド、パステルパレット緊急解散! メンバーの家庭環境が原因か?”……って。いいよね、悲劇のヒロインってさ。どこのテレビも雑誌も「かわいそう、かわいそう」って言ってて、いい宣伝だったでしょ? だからおあいこにしてよ」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:08:59.00 ID:M4jexkrI0
「それでどうしたの、千聖ちゃん。こんな場所で」
「……近くでドラマのロケがあったのよ。それで、噂を聞いたから」
19:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:09:32.15 ID:M4jexkrI0
◆
天才だ。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:03.98 ID:M4jexkrI0
きっかけなんてとっくのとうに忘れたけど、おねーちゃんはギターを始めた。カッコよかった。正確な音を刻み、凛々しい佇まいに感嘆のため息を何度も吐き出した。
その隣に立ちたい。隣に並んで、一緒のことをやりたい。昔から何も変わらない行動原理に基づいて、あたしもギターを始めた。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:32.58 ID:M4jexkrI0
おねーちゃんがギターに触らなくなったのに気付いたのは、高校二年生の時だった。
「どうしたの?」と聞いても、何も答えてくれなかった。ただ暗い顔であたしを一瞥して、それから部屋に籠ることが多くなった。
22:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:59.08 ID:M4jexkrI0
その日から何もかも分からなくなった。
どうして。
23:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:11:44.85 ID:M4jexkrI0
考えても考えても分からなかった。おねーちゃんはもう何も言ってくれない。あたしに笑いかけてくれない。
ひとりの部屋で一向に答えへ辿り着けそうにないことを悩み続けた。そうしていると、おねーちゃんがどうして旅立ってしまったのかは分からないけど、あたし自身がからっぽになったことだけは分かった。
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