14:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:06:44.07 ID:M4jexkrI0
かの有名な伊達男の彫像が立つ本丸跡からは、白銀に覆われた街や遠くの山々が一望できた。綺麗だな、と思うより早く、足が竦んだ。
高い場所だ。ここの標高は130メートルくらいだと、一年前に書店で一度だけ目を通した観光案内の本に書いてあった。
ここから落ちたらどうなるんだろう。ここから落ちようという気持ちはどんなものなんだろう。頭にもたげたその思考が怖い。分かりきった事実と、今でも分からない気持ちにただ慄いてしまう。
やっぱりここには来ない方がよかっただろうか。寒さとは別の理由で震える身体を右手で抱きしめ、今さらなことを考える。
けれどもいい加減ちゃんと向き合うべきだろうという思いもある。今の私にとっての透明な壁はきっとこれだ。見えないけれど、これが向き合うべき壁なんだ。
吐き出した息が震える。傘を閉じて、ゆっくりと真下まで見渡せる手すりまで近づいていく。
足を動かし、浅く積もった雪を踏みしめる度に心臓がキュッとする。一歩ずつゆっくりと、手すりに……簡単に空へ身を投げ出せる場所へ足を進めていく。
脳裏には遠い思い出が浮かび上がる。味気ない日常が雪のように積もった思い出の中で、今でも潰されずに残っていたものがきっとこれなんだろう。
二人で笑っていた。いつまでも楽しそうに笑っていた。にんじんの思い出があった。
それに影が差す。いつのまにか笑っていなかった。どうすればいいのか、どうすれば笑ってくれるのか。信じた道を進むうちに、手が届かなくなった。やがて分からなくなった。
フラッシュバックした思い出にはもうどんなに手を伸ばしたって届かないけれど、今の私はとうとう手すりに手を乗せられる場所までたどり着いた。
怖くて身を乗り出せないから、顔だけを下に向けた。急こう配な石垣があった。ここから飛び降りよう。そう思えるほど大きな勇気があったのか……それとも、恐怖心さえ軽々と飛び越えてしまうほど、鬱屈とした気持ちがあったのか。
分からない。やっぱり考えても分からなかった。足から力が抜けて、この場所にへたり込んでしまいそうだった。
私は大きく息を吐き出して、手すりから手を放して、透明な壁に背を向けた。
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