20:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:03.98 ID:M4jexkrI0
きっかけなんてとっくのとうに忘れたけど、おねーちゃんはギターを始めた。カッコよかった。正確な音を刻み、凛々しい佇まいに感嘆のため息を何度も吐き出した。
その隣に立ちたい。隣に並んで、一緒のことをやりたい。昔から何も変わらない行動原理に基づいて、あたしもギターを始めた。
するとおねーちゃんが何故か苦しい顔をすることが多くなった。
だからあたしはいつもおねーちゃんを心配していた。どうして苦しんでいるのか。どうして悲しんでいるのか。それを少しでも分かりたくて、出来るだけおねーちゃんの近くにいて、話をして、ギターを弾いて、悩みを分かち合いたかった。
「日菜……お願いだから、これ以上私に関わらないで」
ある日、おねーちゃんは熱にうなされるようにそう言った。
その言葉の真意が分からなかった。分からなかったけど、おねーちゃんに心配はかけたくなかった。
「うん、分かった!」
だから明るくそう言って、自分の部屋でおねーちゃんの言葉の意味を考え続けた。
そして行きついたのは、「私のことよりも自分の心配をしなさい」という答えだった。
きっとそうなんだと幼いあたしは無邪気に喜んだ。
おねーちゃんは優しいから、いつでもあたしのことを考えてくれる。子供のころにあたしが嫌いなにんじんをいつも食べてくれたのと一緒だ。きっと「ギターを始めて間もないんだから、私に構ってないで自分の腕を磨きなさい」って叱咤してくれたんだ。
だからあたしはギターの練習をした。一週間で十冊の教則本の弾き方を覚えて、それからもっと腕を磨くためにパステルパレットのオーディションに応募して、その場で合格の声をかけられた。
きっとこれでおねーちゃんも褒めてくれるし、喜んでくれる。そう無邪気に思っていた。思い続けていた。
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