18:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:08:59.00 ID:M4jexkrI0
「それでどうしたの、千聖ちゃん。こんな場所で」
「……近くでドラマのロケがあったのよ。それで、噂を聞いたから」
怒りを押し殺すような震えた声。流石女優さんだなぁ、小さい声なのにすごく聞きやすい。そう思いながら、あたしは千聖ちゃんの言葉を待つ。
「仙台の書店に、失踪した氷川日菜に似た人がいるって」
「へぇ〜。すごいね、三年前に解散したのにそんな噂が立つなんて。でもさ、それはやっぱりただの噂だよ」
「何をふざけたこと言ってるのよっ! 私たちがどれだけあなたの心配をしたと思ってるの!?」
「心配してくれたんだ、ありがと。でも、それは無駄なことだよ。あたしはもうさ、氷川日菜をやめようって思ったんだから。今の私は、氷川紗夜だから」
「あなたね……そんなこと、あなたのお姉さんが望んでるとでも本気で思ってるの!?」
「さぁね。そんなの……一生分かりっこないよ」
口に出せば言葉として意味が圧しかかる。だから声にはしたくなかったし、きっと根っこの部分ではまだ認めたくなかったんだと思う。
だけどもういい。もういいや。結局、あたしは氷川日菜から逃げられなかった。逃げることなんて出来る訳がなかった。それと同じで、これもそれも、もうどうしようもないことなんだから。
「おねーちゃん、もうこの世にいないし」
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