2:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:09:47.27 ID:JbQZeQhn0
僕のパートナーは、この道何十年の大ベテランである。
と言っても、その人の見かけの歳は、僕とそう変わらない。
それは当然と言えた。
僕達は仕事柄、歳をとることがない。
3:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:15:48.00 ID:JbQZeQhn0
僕達は、平たく言えば国家公務員だ。
業務がかなり特殊なだけの。
僕達の仕事は、つまみを回すこと。
4:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:18:10.92 ID:JbQZeQhn0
「どうした、ボウズ」
宵闇にしんしんと降りしきる雪にボーッと持ってかれていた意識が、現実に引き戻される。
ジイサンに呼ばれ、僕はタバコをその場に落とし、靴底で踏み消した。
5:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:23:31.17 ID:JbQZeQhn0
公務員の手当の一つに、特殊勤務手当というものがある。
肉体的、精神的な負担が大きい特殊な業務に従事する職員に、相応の対価を支給するというものだ。
国家公務員の場合、一般職給与法第13条を根拠法令とし、人事院規則でその類型を定めている。
具体例を挙げると、高所で作業する職員とか、検疫所や放射線を扱う支所の職員とか。
6:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:26:19.91 ID:JbQZeQhn0
「来年も俺達、コンビを組まされるのかな」
最後の一件を終え、僕はふとジイサンにこぼした。
僕は、周囲には「俺」で通していた。
7:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:29:14.39 ID:JbQZeQhn0
繰り返しになるが、僕達は歳をとることがない。
年越し代行を行った職員は、そのまま肉体も精神も一年前の状態にリセットされ、次の年を迎える。
若い肉体を維持する代わりに、その年の記憶を引き継ぐ事ができないのだ。
肉体と同様に、精神も負荷を加えれば疲弊し、老いていく。
8:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:30:41.43 ID:JbQZeQhn0
「おう」
いつもの年末、いつもの集合場所で、ジイサンは僕の姿を認めると、嬉しそうに手を上げて笑った。
これに答える代わりに、僕は黙って缶コーヒーを飲み干し、その辺に投げ捨てた。
9:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:31:57.53 ID:JbQZeQhn0
いつの間にか、行きつけの店が潰れていた。
消費税が5%になり、8%になっていた。
僕が最初にやったFFはWだけど、オモテの職場の“同い年の”同僚はスーファミすら知らない。
流行の曲も映画もドラマも、漫画やアニメも何一つ、噛み合う人間が僕の周りにはいない。
それどころか、時代遅れだとバカにされる。
10:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:34:34.76 ID:JbQZeQhn0
「おい知ってるかボウズ」
色気の欠片も無い、野暮ったいデロリアンを運転しながら、ジイサンは藪から棒に話を振った。
「ゆくゆくは、この仕事も全自動化っつーのになるかも知れねぇな。
11:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:35:54.62 ID:JbQZeQhn0
「そうだなぁ」
ご機嫌なトーンを変えずに、ジイサンはハンドルを握りながらウーンと唸っている。
12:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 20:37:59.67 ID:JbQZeQhn0
「――さぁ。絶滅するってことは無いんじゃない?」
僕は頬杖をつき直して、小さくため息をついた。
何が言いたいんだ、この人は。
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