【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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29: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/10(月) 22:09:31.32 ID:Wp4M41Qe0
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開演前のアナウンスが終わってしばらく経ち、客席で鳴っていたBGMは徐々に大きくなる。それと同時に、客席の照明は暗くなり、お客さんが持っているペンライトの色とりどりの光だけが残り、そして、お客さんは期待の声を大きくする。
「始まるよ、くるみちゃん」
30: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:10:44.97 ID:Wp4M41Qe0
折り返しです。
次回は12/13に更新予定です。
31: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/13(木) 19:55:11.12 ID:xAj2PbQr0
4.Juglans
「うっ、うえっ、ふぇ、ひぐっ、ひっ、うえええ、びえええええ〜〜!」
大型家電量販店のスタッフルームに用意された待機場所で、くるみちゃんはとうとう声をあげて泣き出してしまった。涙はあとからあとからあふれて、衣装の袖はびっしょり濡れちゃってる。
32: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 19:57:45.63 ID:xAj2PbQr0
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「今日はよろしくおねがいします!」
「よろしくおねがいしましゅ……します」
33: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 19:59:39.74 ID:xAj2PbQr0
しばらく続けていて、嬉しい誤算があった。くるみちゃんの舌ったらずな呼び込みはかえってお客さんの耳に残り、くるみちゃんの健気な様子がお客さんの心を打ったみたいで、くるみちゃんからクリアファイルを受け取ってくれるお客さんがたくさんいてくれたこと。
直接くるみちゃんに『がんばってね』と声をかけてくれるお客さんも居て、くるみちゃんは恥ずかしそうにしていたけれど、でもそれ以上に嬉しそうだった。
こういうのも才能っていうのかもしれない。私よりずっと活躍してくれている。心配する必要もなかったのかも。
一回目のイベント開始時間が近づく。私たちはクリアファイルの配布を中断し、イベントの準備をすることになった。準備といっても、イベントの流れを確認するくらいで、難しいことはほとんどない。
34: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:02:36.05 ID:xAj2PbQr0
それから十数分、イベントは問題なく進んだ。司会のお姉さんの指示で、私がアステルを使ってインターネットの検索をしたり、童話を読んでもらったり、天気予報や料理のレシピを訪ねたり、登録した照明器具のスイッチを入れたり、スマートフォンを使ってメッセージをやりとりしたり。
くるみちゃんのアステルの挙動に対する一つ一つのリアクションはとても新鮮で、イベントに参加したお客さんたちにも好評だった。
これなら、心配はいらないかな。私がそう思ったころ、それは起こった。
35: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:05:06.68 ID:xAj2PbQr0
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そして、時間は現在に戻る。
「うえ、うぇぇえ、ふぇ〜〜ん、えぇ〜〜ん」
36: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:07:14.85 ID:xAj2PbQr0
くるみちゃんはプロデューサーさんからの言葉を反芻しているみたいだった。眉間にしわを寄せたり、自分で涙をぬぐったり、両手をぎゅっと握りしめたり、唇を結んだりして、必死に自分と戦っている。
私は、せめて自分もなにか力をあげられたらと思い、くるみちゃんの背にそっと手を当てて、祈った。
「ぷろでゅーしゃー」くるみちゃんは、両の大きな瞳からぽろぽろ涙をこぼしながら、それでも笑顔で言った。「くるみ、泣き虫で、ゆるゆるでおバカだけど、でも、お仕事、がんばりたい。涙がこぼれちゃっても、だいじょうぶかな?」
37: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:08:49.94 ID:xAj2PbQr0
司会のお姉さんはマイクを構える。
「はい、くるみさん、ありがとうございます! 困ってしまいました。アステル、反応しませんでしたね。けれど、これは故障でも、もちろんくるみさんが失敗したわけでもないんです。アステルは呼んでくれた人の声を覚えて、間違えてほかの人の声に反応しないように聞き分けます。このアステルは、第一回で夕美さんの声を覚えていたので、くるみさんの声に反応させるには、新たにくるみさんの声を登録をする必要があるんです」
「ふぇ、そうなの? あしゅてる、しゅごい……」
38: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:10:01.06 ID:xAj2PbQr0
「今日はありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
イベントが終わり、バックヤードの待機場所で、私とくるみちゃんはスタッフさんと司会のお姉さんに頭を下げた。
39: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:11:02.00 ID:xAj2PbQr0
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週が明けた水曜日。私は事務室の前に置いたプランターに咲く秋のお花さんたちの様子を確認してから、鼻歌混じりに事務室の扉を開けた。くるみちゃんがとっても活躍したことを、みんなに伝えよう――
と、事務室の扉の中に入ると、中には先に来ていたはぁとさんが、私よりも上機嫌な様子でキーボードを叩いていた。
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