【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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32: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 19:57:45.63 ID:xAj2PbQr0
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「今日はよろしくおねがいします!」

「よろしくおねがいしましゅ……します」

 お仕事の当日。私とくるみちゃんは家電量販店のスタッフさんに頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。そんなに複雑な仕事ではありませんし、なにか不測の事態があった場合には私がすぐフォローします。では、こちらへ」

 スタッフさんはバックヤードに置かれた長机を手で示す。長机の上には二人分のペットボトルのお茶と、衣装が入っているらしいクリーニング業者の袋、それから星型のカラフルな機械――今日のイベントで使うスマートスピーカーが置かれていた。私が片手でも掴めそうなくらいの大きさで、表面は布でできてて、編みぐるみみたい。

「こちらがイベントでお二人に紹介してもらう新製品『アステル』です。イベント概要をお渡ししていると思いますが、お二人に司会の指示の通りアステルに呼びかけていただくのが主な内容です。あとは、最後に商品を手に取ったお二人を撮影し宣材にさせていただきます」

「わかりました」

 くるみちゃんはアステルを物珍しそうに眺めている。

「着替えは毎度専用の場所を用意できなくて申し訳ないですが、スタッフの女性用更衣室でお願いします。ご案内しますね」

 そう言うと、スタッフさんはクリーニング業者の袋を持って私たちを更衣室へ案内してくれた。



「くるみちゃん、だいじょうぶ? 緊張してる?」

 衣装に着替えて待機場所に戻り、私はくるみちゃんに尋ねる。お仕事の時間が近づいて、くるみちゃんの顔には少しずつ緊張の色がにじんでいた。

「……すー、はー……うん、だいじょうぶ。夕美しゃん、ありがとぉ」

 くるみちゃんは深呼吸して微笑む。その姿が健気で、私はちょっとだけ胸が苦しくなった。
 はじめてのお仕事が思った通りに行くなんてことは殆どないし、くるみちゃんにはむしろ、たくさん経験して、失敗したり間違ったりしても大丈夫だと知ってもらうことが大事だと私は思っていた。
 だから、緊張するのも大事な経験だよね。今日の私は、いざというときのフォロー役だ。

「じゃ、そろそろ時間だね。行こうか、くるみちゃん」

「……うん」

 くるみちゃんは返事をしながら、自分の衣装の胸のあたりを気にしていた。やっぱり、いくら大きめの衣装を用意してもらったとはいえ、くるみちゃんの大きな胸ではぱつぱつになってしまっている。
 着替えたときに身体が自由に動かせるか、呼吸が苦しかったりしないか、締め付けが強すぎないかは一緒に確かめたけど、まだ衣装を着ること自体に慣れていないのだろう。

「そろそろ時間です。行けますか?」

「はいっ」

 スタッフさんに尋ねられ、私とくるみちゃんは返事をする。スタッフさんに先導されて、私とくるみちゃんは売り場をイベント会場まで歩いた。
 くるみちゃんはちょっとだけ周りのお客さんの視線を気にしていた。ふつうに生活していれば、こういう衣装を着ることもないし、人の注目を集めることなんてない。だからこれも、経験を重ねてちょっとずつ慣れてもらうしかない。

「開始時間までは、イベント開始時間を告知しながらこのクリアファイルを配ってください。開始時間になりましたらこちらで声をかけます」

「わかりました!」

 私とくるみちゃんはクリアファイルを受け取り、売り場の通路に立つ。

「くるみちゃん、私のマネをしてお客さんに声をかけてね。こういうのは貰ってくれないのが当然だから、貰ってくれたらラッキー、くらいの気持ちで、笑顔でねっ!」

「はぁい……がんばる」

 くるみちゃんは気合十分、って感じ。あまり心配しなくてよさそう。
 私とくるみちゃんはそれぞれ立ち位置を決めて、アステルの宣伝用クリアファイルを配り始める。

「新しいスマートスピーカー、アステルでーす、十一時からイベントやりまーす、よろしくおねがいしまーす!」

「新しいしゅ、スマートスピーカー、あしゅてるでーす! イベントやりまーしゅ、す、よろしくおねがいしまーす!」

 私たちは大きな声でお客さんたちに声をかけた。



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