【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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31: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/13(木) 19:55:11.12 ID:xAj2PbQr0
4.Juglans
「うっ、うえっ、ふぇ、ひぐっ、ひっ、うえええ、びえええええ〜〜!」
大型家電量販店のスタッフルームに用意された待機場所で、くるみちゃんはとうとう声をあげて泣き出してしまった。涙はあとからあとからあふれて、衣装の袖はびっしょり濡れちゃってる。
「えっと、くるみちゃん、落ち着いて……」私はくるみちゃんの背中をさする。「ど、どうしよう……?」
量販店のスタッフさんも困り果てた顔をしている。
今日のお仕事である販促イベントの後半の部開始まで、あと、三十分。
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話は一週間前にさかのぼる。
「イベントコンパニオン、ですか」
私が読み終えた資料を机に置くと、プロデューサーさんは頷いた。
「はい。ここから数駅の駅前にある家電量販店で、プロダクションとしても付き合いが長く、あちらの担当者も所属アイドルの扱いは心得ています。大沼さんの最初のお仕事として適当と判断しました。逆に、相葉さんには簡単すぎるお仕事となってしまい申し訳ありませんが……」
「いいえ、くるみちゃんの初仕事、しっかりサポートします!」
「イベントコンパニオン……って、なぁに……?」
私のとなりに座るくるみちゃんが首をかしげる。くるみちゃんには、まだ企画書のビジネス文書は少し難しいのだろう。
「お店で商品がたくさん売れるように、チラシを配ったり、お話したりする人のことだよ」
「うぅ……くるみ、できるかなぁ……」
くるみちゃんは不安そうにしている。はじめてのお仕事は誰だって不安だよね。
「きっと大丈夫だと思うな。チラシを配ってるあいだは『よろしくおねがいします』って笑顔で言えれば大丈夫だし、メーカーの営業担当者さんが司会みたいだから、私たちは司会の人と楽しくお話すれば大丈夫だよ!」
今回の仕事は、新製品のスマートスピーカーの販促イベントだった。営業の担当者さんが司会をするので、私もくるみちゃんも、お客さんと同じ『初心者』の立場に立つことが大事。裏を返せば、特別な準備をするより、素のままの私たちほうが好まれるお仕事。欲を言えば、イベントを見に来るお客さんに私やくるみちゃんのことも覚えてもらいたいけれど、あくまで主役は新製品。
当日の衣装はメーカーのロゴデザインに寄せた、身体にフィットするちょっとサイバーな感じのワンピースだった。
くるみちゃんをちらっと見る。サイズはきっと大丈夫だと思うけれど、慣れないうちは身体にぴったりフィットする衣装は恥ずかしいよね。
「……くるみ、がんばりゅ」
くるみちゃんは決意したように頷いた。
きっと、この前のサマーフェスがいい刺激になったんだろうな。
最初に出会ったときに言っていた、くるみちゃんの目標を思い出す。私にお手伝いできることはがんばろう。
そして、私もくるみちゃんと一緒に前に進まなきゃ。
「それでは、お願いします。当日は資料に書かれている通り、現地の家電フロアでバックヤードのスタッフに言えば待機場所に案内してもらえます」
「わかりました」
「はじめてのお仕事……うん」
私たちが頷くと、プロデューサーさんは穏やかな笑顔で頷いた。
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