【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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33: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 19:59:39.74 ID:xAj2PbQr0
しばらく続けていて、嬉しい誤算があった。くるみちゃんの舌ったらずな呼び込みはかえってお客さんの耳に残り、くるみちゃんの健気な様子がお客さんの心を打ったみたいで、くるみちゃんからクリアファイルを受け取ってくれるお客さんがたくさんいてくれたこと。
直接くるみちゃんに『がんばってね』と声をかけてくれるお客さんも居て、くるみちゃんは恥ずかしそうにしていたけれど、でもそれ以上に嬉しそうだった。
こういうのも才能っていうのかもしれない。私よりずっと活躍してくれている。心配する必要もなかったのかも。
一回目のイベント開始時間が近づく。私たちはクリアファイルの配布を中断し、イベントの準備をすることになった。準備といっても、イベントの流れを確認するくらいで、難しいことはほとんどない。
私たちは司会の女性と顔合わせする。私たちとデザインは一緒で、カラーリングが違う衣装を着た若いお姉さんだった。
「司会から、お二人にアステルの機能を試していただく指示をしますので、指示のとおりにアステルに呼びかけてください。司会はお客さんにもわかりやすいように、専門用語を極力使わないように説明しますのでご安心ください」
スタッフさんが説明してくれる。
「はい……あの、アステルって司会の方の言葉に反応しちゃったりしないんですか?」
「大丈夫です。いまは電源が入っていませんが、最初に『ハローアステル』と言うのがアステルへ指示するときの合図になっています」
「なるほど、合図があるんだ」
「あとは場に合わせて盛り上げていただければ」
「もりあげ……?」
くるみちゃんが首をかしげる。
「アステルのことがすごい! って思ったら、拍手したり、お客さんに笑顔を見せたりすることかなぁ。くるみちゃんが思ったとおりにやってもいいし、私と一緒にやっても大丈夫だよ」
「うん、くるみ、やってみる」
「よろしくおねがいします。……では、そろそろ時間ですね」
あたりにはイベントの開始を待つお客さんがちらちら集まってきていた。
「じゃあ、開始しますね。アステルの電源を入れて……よし」
星型のアステルの底がぼんやりと光って、ピポピポと音が鳴った。
「それでは、新型スマートスピーカー『アステル』の機能説明を行います、宜しければぜひご覧くださーい!」
司会のお姉さんが声をあげたので、私もそれに続く。
「どうぞー、お立ち寄りくださーい!」
「お立ち寄りくだしゃ、さーい!」
くるみちゃんも笑顔で声をあげた。
多少人が集まって来たところで、司会のお姉さんがマイクを持ちあげる。
「はい、お集まりいただきありがとうございます、本日は弊社の新製品、新型スマートスピーカー『アステル』をご紹介させていただきたいと思います!」
お姉さんは自分の名前を名乗ると、深く頭を下げる。
「本日、アシスタントを努めますのは、美城プロダクション所属のアイドル、相葉夕美さんと、大沼くるみさんです! くるみさんは今日がアイドルとしての初めてのお仕事だそうです! 皆さん、お手柔らかにお願いします!」
「よろしくおねがいしまーす!」
「よろしくおねがいします!」
私たちもお辞儀をする。拍手が帰って来た。くるみちゃんがはにかんでいる。
「それでは、さっそくはじめたいと思います、まずはアステルを呼んでみましょう。夕美さん、さっそくお願いします」
「はいっ。アステルを呼ぶときは、こう言います。……『ハロー、アステル!』」
スマートスピーカーが光り『お呼びでしょうか』と返事をした。
「ふぇえ、アシュ……ステル、しゃべった……」
くるみちゃんが驚くと、それにつられて何人かが笑い声を漏らした。くるみちゃんはちょっと恥ずかしそうに笑った。
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