8: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/04(金) 23:17:10.80 ID:GasL4mJG0
夜、眠るたびに夢を見た。かつて所属していた事務所の社長や、同僚のアイドルや、プロデューサーさんたちが私を指差して「お前のせいだ」と責めたてる夢だ。夢の中の私は、ひたすらに頭を下げて「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返していた。
『お前のせいだ、お前さえいなければ』
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
9: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/04(金) 23:19:02.70 ID:GasL4mJG0
*
ひどく喉が渇いていた。
辺りを見回し、すぐ目の前の公園に飲み物の自動販売機があるのを見つける。
10: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/04(金) 23:21:36.15 ID:GasL4mJG0
「どうしたの?」
ふいに背後から声がかかる。あわてて目元をぬぐい振り返ると、すぐそばにスーツ姿の男の人がいた。
周囲に他に人の姿はない。さっきの言葉は、私に向けて言ったようだ。
11: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/04(金) 23:22:42.83 ID:GasL4mJG0
「今回のプロダクションでは、お仕事をもらえて……。売れっ子さんのバーターでの出演でしたけど、それでもいけるかなって思ってたんですけど……やっぱりダメで」
「今日の、現場に来なかったって子かな」
こくりとうなずきを返す。
12: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/04(金) 23:23:44.97 ID:GasL4mJG0
――あなたさえいなければ。
伸ばしかけた腕がこわばる。
13:名無しNIPPER[sage]
2018/05/05(土) 07:41:29.73 ID:5oRT5R0SO
シンデルヤン
14: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:10:05.29 ID:sqRoe9hI0
02.
あたしはかなりの夜型なもんで、たいていの場合、かなりの深夜になってから床につく。
昨夜は特に、次の日(つまり今日)が久々のオフだと知っていたこともあって、なんの遠慮もなく夜更かしして、ベッドに潜り込んだころにはもう空が明るみ始めていた。
15: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:11:39.14 ID:sqRoe9hI0
ちひろさんからの依頼は、新人アイドルが寮に入るから案内してやってほしい、とのことだった。
平日のまっ昼間ということもあり、学生たちはみんな学校に行っている。そうでない人らは仕事やらレッスンやらに出ていて、ちょうど手の空いているのがあたしぐらいしかいなかったそうだ。
特に用事があるわけでもなかったので、あたしはそれを承諾した。
新人さんがどんな子かというのにも興味があったし、寮に入るのならなにかと顔を合わせる機会も多いだろう、他の誰よりも早く顔見知りになれるというのに、ちょっとした優越感を感じたりもする。
16: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:12:32.82 ID:sqRoe9hI0
ちひろさんとの通話を終え、あたしは手早くシャワーを浴びてから1階ロビーに降りた。
長椅子に寝そべり、共同スペースから持ってきた雑誌を眺めながらしばし待つ。ほどなくして、入り口の自動ドアの向こうにひと組の男女が連れ立って歩いてくるのが見えた。
少し後ろを歩いている少女が新人さんだろう。聞いた年齢よりはいくらか大人びて見える。
男のほうは、あまり話をしたことはないけど見覚えのあるプロデューサーだ。あの人が新人さんの担当になったのかな。……って、なんだあれ?
17: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:13:43.40 ID:sqRoe9hI0
ここが大浴場だけど各部屋にもユニットバスはついてるよ。こっちは共同スペースで何種類か定期購入されてる雑誌があるから勝手に読んでいいよ、読み終わったら戻しておいてね。エレベーターはあっちとそっち、このドアの向こうは非常階段、と適当に施設内を案内していく。
ほたるちゃんはきょろきょろと周りを見回しながら、慎重な足取りであたしについてきた。新しい環境への興味というふうではなく、なんとなく、警戒をしているように見えた。この子は殺し屋に命でも狙われているのだろうか?
「で、最後にここが食堂ね、朝昼晩にごはんが出るよ。時間逃したら食べられないから気を付けてねー」
18: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:15:12.92 ID:sqRoe9hI0
「……不幸が」
「はい」
「うつりますから」
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