白菊ほたる『災いの子』
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16: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:12:32.82 ID:sqRoe9hI0
 ちひろさんとの通話を終え、あたしは手早くシャワーを浴びてから1階ロビーに降りた。
 長椅子に寝そべり、共同スペースから持ってきた雑誌を眺めながらしばし待つ。ほどなくして、入り口の自動ドアの向こうにひと組の男女が連れ立って歩いてくるのが見えた。
 少し後ろを歩いている少女が新人さんだろう。聞いた年齢よりはいくらか大人びて見える。
 男のほうは、あまり話をしたことはないけど見覚えのあるプロデューサーだ。あの人が新人さんの担当になったのかな。……って、なんだあれ?

 あたしは体を起こし、自動ドアを通ってきたふたりに向けて片手を上げた。

「白菊ほたるです……よろしくお願いします」

 緊張した様子の少女がぺこりと頭を下げる。業界経験があるせいなのか、やけに礼儀正しい。

「ほたるちゃんね、よろしくー。あたしは塩見周子。えーと……知ってるかな?」

「はいもちろん。CDも持っていて、よく聴いてます」

 あたしは心の中でほっと胸をなでおろした。自分ではそこそこ売れてきてるんじゃないかなー、なんて思ったりするものの、そもそもアイドルなんてのは興味のない人はまったく興味がないわけで、有名人ヅラして相手が知らなかったりすると、なかなか恥ずかしいことになる。
 まあ、同業に知られてないってことはさすがにないとは思うけど、念のためね。

「では塩見さん、案内はお願いします」とプロデューサーが言った。「白菊の部屋は616号室で、荷物はもう運びこまれているはずです」

「うん、それはいいんだけどさ……それ、どしたん?」

 あたしは自分の頬を人差し指でとんとんと叩いた。
 プロデューサーの頬には、大きなガーゼが医療用テープでとめられていた。よく見れば、手やほかのあちこちにもガーゼや絆創膏がぺたぺたと貼られている。
 なぜか、ほたるちゃんがばつが悪そうに顔を伏せた。

「かすり傷です」とプロデューサーが答える。

 そのかすり傷の原因を聞きたかったんだけどな、と思ったけど、たぶん言いたくないということなのだろう。それ以上の追求はやめておいた。

「じゃあついてきて」

 ほたるちゃんに向けて言って、あたしは先導して歩き出した。


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