22: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 22:57:46.63 ID:6rZ5mY140
「ゆうた?ゆうた!」の遠くから強くなる掛け声でここに戻される。心配そうに眉をひそめて大丈夫?って声のトーンを落とされ、どうやら偽りの仮面を見破られ本気で心配しているその顔に気付いた。驚いた俺は何とか楽しいデートを繋ごうと声を高く大丈夫だよっ!と六花に明るくつき返す。さて行こうかとこの顔を反らし二人で手を繋いで公園から出ると、次何しようかと思い次の目的地を歩いて探求する。本屋行こうかな、それとも河原か?
あれこれ場所が浮かんでくる。ん?手を繋ぐ感触がない、あれ?六花がいない。気が付いたら公園の出口のところに座っていた。
勇太「おい何やってんだ!車に轢かれるぞ!」
六花「疲れたー!」
勇太「俺だって疲れたよ!」
23: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 22:58:12.89 ID:6rZ5mY140
そして河原の草原中央までついた俺は、ほら降りろと促してもカメムシのマネって言ってくるリッカスを下敷きに俺の両手両足を草地に伸ばして大の字になり「い、いたい、痛い!」の楽しい声を鑑賞した。俺の背中を殴るように動き出た六花は、目の前の河原の草原に走って満足している。安らかな青空、ああ背中が癒される。時計を見ると時刻は4時30分のそろそろ夕刻を指している。小学生らしき身長の子供が遠くの方で遊んでいるのを音で聞く。そよ風が気持ちいい、とくに背中に六花を乗せたので汗びっしょりだ。何もなく静かで何にも感じない世界。そのとき弁当の時の静かすぎる暗闇を思い出す。あれはなんだったんだろう?なぜ六花はあんなことに?普通じゃないのに普通だと思う謎の理由は?まあそのうち忘れるだろう。でも、ほんとにそれでいいのか……?
ん?そういえば六花は今どこにいるんだ?と、振り向くと車道の近くの草原に触って何かやっているらしい。
勇太「おーーーい!危ないぞ!!」
俺が手を振ると六花は手を振り返してくる。そういう意味じゃないっての!すぐに戻ってきた。六花は、横たわっている俺の腹を片手で上からかざすように回している。
勇太「なにやってんだ?」
24: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 22:59:13.10 ID:6rZ5mY140
第3話 「恋の時限爆弾(神はあなたを助けない)」
気が付いたら夕陽が差し掛かる。太陽の天下も下り坂。あれだけ青かった空も威厳をなくして、世界がオレンジと黄金に近い色に染まり光の届かない位置にはうっすら影を落としている。しかし空の色はまだ水色で、その金色と水色が混じったこの町は自家製ダイヤモンドのじっと見たくなる暖かい輝きを放っていた。鳥の群れも1,2羽電線に止まり、気象の変化に仲間を呼ぶ鳴き声もまばらに聞こえる。髪をなびかせる風も、六花に気に掛けるぐらい11月の冬らしい寒さで、風も少し強くなったと断言できる。バタバタいわせる俺たちの服の羽ばたきで勢いを感じた。棒立ちする六花のゴススカートも前より大きく風に流されていてうっとおしいのか細く白い手で抑えていた。この町の活気ももうすぐだ。オレンジ色の引導でできた道を見渡せば犬の散歩連れや走るランナーが昼間よりは多く見かけるようになったように思える。その生命の力を示す太陽に照らされて、六花の横顔は金色に見えて、特に可愛らしい高い鼻のてっぺんがオレンジ一点に反射していて、頬は暗く大人に映る。六花のその美しく輝く宝石をどんな存在よりも見ていたいと思った。それも永遠に。これが本番の告白前の最後の、六花とデートしたときの最後の姿だと思うと胸がキュって苦しくなる。でもこれでいいんだ。俺は前に進みたい。そう決心したんだ。
ふう。と気を込める。緊張で心臓の高鳴る音が止まらない。いよいよ本番で、今夜が最後。時間って思ったより早いもんだなといまさら悟る。だが振り返るほど後悔はない。
このデートもあと少しで終息を決める。そしてその決断者は俺だ。
25: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:00:00.42 ID:6rZ5mY140
六花「……」
勇太「ん?何バカなこと言ってるんだよ。いつも楽しいに決まっているじゃんか」
六花「……」
勇太「……」
六花「……」
26: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:00:33.04 ID:6rZ5mY140
えっ……!?
衝撃が走る。地に弾けた一滴の涙に心が壊れる。
俺の呼吸は止まり、歓喜は死に、頭の流れも白色に凍結し、血脈の流れる妄想が頭の中に駆け巡る。
なんだよ。何が言いたいんだよ。
聞いてはいけないものを聞いている。明らかに。
27: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:01:08.58 ID:6rZ5mY140
勇太「あ………….。あのさ……夕陽、赤いな。真っ赤だな。すごいな!あれだけの大空を真っ赤に染めるなんて。特殊能力なんて信じられないけどすごい力がはたらいている。あんな大空を一瞬で真っ赤に染めるなんてさ。綺麗だ。前にもさ、初めて抱き合う日に、こうやって屋上で夕陽眺めてたよなー。懐かしかったなぁ。あの時は愛し合う前だった。月日って流れるの早いよな」
六花「……」
勇太「…………」
反応なしか。目の前に火の立てを描こうとした希望が暗い灰になって燃え尽きる。
もっと惹きつけるのがほしい!
28: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:01:46.72 ID:6rZ5mY140
勇太「着いたな」
六花「……」
勇太「今日は色々あったよな」
六花「……」
29: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:02:38.69 ID:6rZ5mY140
六花……?
お前本当に大丈夫か!?って問いたくなるが、また同じ答えをされるだろう。黙るしかない。
とにかく久しぶりに声を聞けたのはうれしい。疎遠の崩壊にはならなさそうだ。
しばらく無言だった。静寂の夜が心地よかったのもあるが。だが無言だったのであまりにも苦痛だったゆえに「今日はデート遅刻してごめん」と真正面に謝ると、その表情で首を横に振られた。その不気味な光景から早く避けたい気持ちが渦巻く。
そして言うタイミングを失った。彼女が目の前にいるのにいつ喋りかけたらいいか、嫌われるのが確定事項だからなおさらだった。でも何もしないのも評価を落とす一方なのも分かってる。
30: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:03:20.00 ID:6rZ5mY140
……。理不尽だ。意味が分からない。この光景、理解不能な現象。
丹生谷「小鳥遊さん、待っているんだからね!」
その言葉が脳内に思い出される。正確にはそんな言葉は聞いていない。俺の中の丹生谷の話だ。誰かが今の俺のために叱りつけている。未来から飛んできたような変な感覚。
丹生谷……。こういうとき丹生谷だったらどういう対処しているかな。怒っているから相当なことで……。六花は本気なんだ。それ以外は不要だったんだ。最初からこじれた関係からの諦めリタイアを望んでいるのは、いじけた六花のほうじゃなくてそう思っている俺の方だった。六花は悪くない。現実逃避したのは俺だ。あいつは最初から訳があってあんなことをやっているんだ。やっぱり原因があるんじゃないか。それをないがしろに扱って俺というやつは。じゃあ、本気を行使しようか。おそらく一回目覚めたら世界は世紀末的に消滅するだろうな…..と意気込んで。
勇太「ごめん」
31: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:03:51.84 ID:6rZ5mY140
はぁ!はぁ!はぁ!!!急いで階段を2つ股飛びし最短ルートで自転車置き場まで直行する。陸上選手もびっくりだ!荒い息でめまいがしてきた。事故現場を見ると、案の定転げた自転車の山ができてるよハハッ……。その中に3台上がった自転車と六花がいたので話さずにはいられなかった。
勇太「大丈夫か!」
六花「平気。鍵は見つかった?」
泣き言……言わないんだな。
32: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:04:36.92 ID:6rZ5mY140
第4話 「バニッシュオブゼウス;デイオブゼウス」
(蝶になった夢を見た人は、蝶になった夢を見ていたか、今の自分が蝶であるか分からない)
世界は暗黒に染まる。あれだけカラフルだった物体は今、黒または白の色を輝かせる。
この地球に住む者たちの昼間からでは観測できない異様な変化が影の支配によって訪れる。
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